193.テンポ

カーニバル2日目の朝、トキオはグラスのパーティに参加する為、迷宮入り口に向かった。
一日会わなかっただけなのに、ティーカップのことが気になって仕方がない。
昨夜は隣室の物音の加減から、部屋に一人でいるらしいことを確認してほっとしたのだが、そんな自分はややストーカー気味でヤバイかも…などと思ってしまい、少しブルーになった。
*
迷宮入り口に集まっている人の数が判別出来る距離まで近付いて、トキオは立ち止まった。
深い青のマントに白銀の鎧、黄金に輝く髪、遠目に見てもそれとわかる立ち姿。
トキオは思わず走りはじめていた。

「よう!」
トキオが笑顔で片手を挙げると、やはりトキオに気付いていたらしいティーカップは、両腰に手をあてて軽く顎を上げて応えた。
「おはよう」
「お前も潜るのか?」
「まあね」
「誰と?」
トキオが矢継ぎ早に訊くと、ティーカップはすぐ横に立っている男を親指で差した。
「よお」
その男、グラスがにやりと笑う。
-真横に立ってたのに、俺のこと見えてなかったな?
そんな声が聞こえてきそうな笑顔だ。
「あー…、…っと」
トキオはグラスとティーカップを交互に見て、
「んじゃ、俺と同じパーティ、だな」
全くひねりのない言葉を出した。
グラスが笑いながら頷く。
「今日は、前衛に俺とティーカップとキャド」
グラスの大きな体の向こうに隠れていたキャドが一歩踏み出して、姿を現した。
「後衛はトキオとヘス、5人編成だ」
少し離れた木柵に腰掛けていたヘスが、こちらへ歩いてきた。
グラスが迷宮入り口に向けて右腕を振る。
「行こう」

階段を下りた所でマロールを唱えて9階のシュート前にテレポートし、10階に降りるとすぐに第一の玄室に向かって歩きはじめる。立ち止まることなく扉を開けて、戦闘開始-
テンポの早いこのパーティの行動中は、後衛のトキオが前衛のティーカップに話しかける余裕はない。
-地上に戻ってからメシに誘って、ゆっくり話すか。
最初の守衛の出した宝箱の罠を解除しながら、トキオはそんなことを考えた。

ティーカップが口を開いたのは、四番目の守衛が残した宝箱にトキオがとりついた直後だった。
「君のパーティはいつもこんなテンポで行動してるのか?」
トキオが顔だけ振り向くと、腕組みをしたティーカップがグラスの正面に立っていた。
「ああ」
グラスの答えに、ティーカップは眉を顰めた。
「君には自殺願望でもあるのか?」
一旦宝箱に向き直っていたトキオは、思わずもう一度二人の方を振り向いた。
「緊張感を保ったまま移動するのはいいことだ。でも君のテンポは早すぎる。息継ぎがない。張りすぎた緊張の糸はそのうち切れてしまうぞ。こんな階層での緊張の崩壊は全滅の引き金だ」
ティーカップは組んでいた腕をほどいて右手を腰に置き、左手でグラスを指差した。
「一番の問題は、君がそれを充分わかっていてテンポを緩めないでいることだ」
ティーカップの言葉を、グラスは神妙な顔で聞いている。
キャドはそんな二人を見ながら、口の端で笑っている。
ヘスは-よく見ていないとわからないぐらいの微かな動きではあったが-確かに一度、頷いた。

「君のマスターベーションにつきあって死ぬのはごめんだ。僕はここで抜けさせてもらう」
ティーカップはグラスを差していた指を開いて大きく振ると、地上行きの転移の魔方陣へと歩きはじめた。
「お、おい、」
トキオが立ち上がると、
「罠は、はずしてくれたか?」
グラスが言った。
「あ、いや、まだ」
トキオの目はティーカップの背を追っている。
「罠はなんだ?」
「、石弓の矢だ」
「なら俺が開けよう。行ってくれていい」
「…、」
トキオは宝箱を一度見下ろし、グラスを見て、魔方陣に踏み込むティーカップを確認すると、
「んじゃ、よろしく」
言って、自分も魔方陣へと走った。

Back Back (R18) Next
entrance