192.5.あとで

ロイドはバベルの診療所まで連れて来たヒメマルを、診察室に残して奥に入って行った。
-なんなんだろ。
ヒメマルが固いベッドに腰をかけて待っていると、ロイドが戻ってきた。
「もう少し待て」
ロイドはそう言うと、腕を組んで壁にもたれかかった。

診察室が無音になると、奥から微かな声が漏れ聞こえてきた。
自分の膝に片肘をついて、掌で頬を歪ませたヒメマルが不愉快さをあらわにする。
「俺、3Pとか興味ないよ」
ロイドは奥へ続く廊下に視線をやったまま、
「そうじゃない」
と短く答えた。
「ロイドさんって、あの人の何?」
「恋人 の一人だ」
ただでさえ低いロイドの声のトーンが、更に一段落ちた。
「あの人、何人も恋人いるの?」
「ああ」
「嫌じゃない?」
「嫌だな」
「他にもっといい人いるんじゃないの」
「かもな」
-この人、ほんとに素っ気無いなあ。
ヒメマルはつまらなそうに軽く溜息をつくと、腕を脚の間に下ろした。

それから10分ほどして、扉の開く音がした。
ロイドが、手ぶりでヒメマルに立つように促す。
奥へ向かうロイドについて行くと、黒いローブを軽く羽織っただけのバベルが半開きの扉の前に立っていた。
「なんなの」
「早く入って」
バベルは喋ろうとするヒメマルの腕を掴んで引くと、部屋の中へ押し込んだ。
「泊まっていっていいから」
閉められた扉の向こうから、バベルの声がした。
ヒメマルは首を捻りながら部屋に向き直った。
天井から下がる大きな二枚のカーテンが、室内を区切っている。
二枚のカーテンの中央を開いて奥を覗くと、キングサイズの豪奢なベッドと、その上でだらしなく脚を開いて、胸を波打たせているブルーベルの裸身が目に入った。

「…ベル」
ヒメマルがベッドに歩み寄ると、ブルーベルはゆっくりとこちらに顔を向けた。
長い睫毛に半ば伏せられている瞳は濡れて、頬が薔薇色に上気している。
ヒメマルは肩で大きく溜息をついて、額に手をあてた。
よっぽど良かったんだね、と言おうとした時、
「早く」
ブルーベルが吐息混じりに言った。
「ベル、他の人の続きってのは嬉しくないよ」
ヒメマルはベッドに腰掛け、ブルーベルの頬を撫でた。
「いいから、早く」
ブルーベルの声が苛立ちを含んでいる。
ヒメマルは頭を掻いて、服を脱ぎはじめた。

ヒメマルが服を全て脱いでベッドの上に乗ると、ブルーベルは両膝の裏に腕をかけて脚を大きく広げ、その中央をヒメマルに見せた。
「…こんなの入れて」
ヒメマルは、ブルーベルのアヌスを塞いでいる太いディルドに触れた。
「んっ…、抜いて…、早く入れて」
ブルーベルの甘えるような声に苦笑して、ヒメマルはゆっくりディルドを引き抜いた。
「ぁ…」
ブルーベルの躯がひくりと反応する。
-…ローション…?かな
ディルドには、精液とは違う半透明の液体がぬるぬるとまとわりついている。
「はぁやく」
ブルーベルにせかされ、ヒメマルはディルドを放って自分のものに手をかけた。
「…、」
挿入しようとして、ヒメマルは躊躇した。
「ベル…、何入れられたの?」
ブルーベルの中からは、ディルドに絡みついていたものと同じ半透明の液体が流れ続けている。
「はやくってば!!」
ヒステリックに怒鳴られたヒメマルは、肩を竦めると、左腕でブルーベルの右太腿を抱くように引き寄せながら、ゆっくりと入っていった。
「ん…、ン」
ブルーベルが鼻にかかった声を出す。
ヒメマルは自身を根元までブルーベルの中に埋めて大きく息を吐くと、細い身体を抱きすくめた。
そのままブルーベルの耳や唇を貪るうち、繋がっている部分が徐々に熱を持ち始め、股間から身体の芯を通って頭の天辺まで-何かが駆け上るような感覚に襲われて、ヒメマルは身震いした。
「これ…、何?」
ヒメマルが訊くと、ブルーベルは緩い笑顔を浮かべ、
「あとで」
小さく言って、ゆっくり腰を使いはじめた。

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