194.そっち系

地下10階から地上に通じる魔方陣は、どれも城の前の大きな広場へ出るように作られている。やはり、地下迷宮自体を王が作らせたという説は正しそうだ。
トキオは優しい日差しに目を細めながら、辺りを見回した。
周囲にいるのは、同様に魔方陣を踏んで戻ってきた潜り屋ばかりだ。
パーティのかたまりが点々と目に入る。
石柱にもたれて腕を組み、一人で立っているティーカップはすぐに見つけることが出来た。

「なんだ、君も上がってきたのか」
歩み寄るトキオに向かって、ティーカップは姿勢を崩さないままで言った。
「賢明な判断だ」
「…、」
トキオは返答に困った。
ティーカップがグラスに対して言ったことは、間違っていないと思う。
トキオも今までに何度か、ペースが速すぎると感じたことはあったのだ。
自分は後衛で主に回復役だから、その程度の認識で済んでいたのかも知れない。
そういえば、スリィピーは度々ため息をついていた。
ロイドやキャドは平然としていたが、彼らは普通の人ではない。
ビアスはあまり気にしているようではなかったが-おそらく、タフなのだろう。

トキオは一人で納得して小さく頷くと、顔を上げた。
「これからまた誰かと組んで潜るのか?」
「…いや。気がそがれた」
ティーカップは石柱から背を離した。このままどこかへ行ってしまいそうだ。
「腹減ってないか?」
トキオは慌てて訊いた。
「減ってない」
「…んー…と、」
トキオが「じゃあ、祭りにでも」と続けようとした時、
「円形土砦跡でのんびりしてくる」
ティーカップは歩きはじめた。
「あ…、俺も行っていいか」
トキオが追いつくと、
「昼寝するだけだぞ」
ティーカップは歩みを止めずに答えた。
「俺も昼寝したかったんだ」
そう言ったトキオを横目でちらりと見て、ティーカップは小さく笑みをこぼした。
*
ヒメマルが目を覚まして隣を見ると、ブルーベルはベッドにうつ伏せに寝そべって両肘をつき、枕の上に広げた本に視線を落としていた。
「分類は悪魔だし、出来るだけ深い層で召喚する方がいいと思うんだ」
ヒメマルの視線に気づいたブルーベルは、しおりを挟んで本を閉じた。
「2人だけで潜るんだったら、あんまり深いと危ないよ…はぅわ~…」
ヒメマルは、仰向けに寝たままで大あくびをした。
まだ眠い。
時刻は定かではないが、部屋に朝日が射してから眠りに落ちたのは確かだ。

「…で、あれはなんだったの?」
ヒメマルは、ブルーベルの背に腕を回しながら訊いた。
「あれ?」
ブルーベルはヒメマルの左肩に、すり寄せるように頭を乗せた。
「ベルの中に入ってた、ローションみたいなの」
「あぁ、バベルの精液」
「…」
ヒメマルは、余っている右手で目頭を押さえた。
「良かっただろ?」
「…んー…」
つい朝まで頑張ってしまったのは、明らかにあの液体の影響だ。
「…あの人、なんなの?」
量も質も、普通のそれではなかった。
「色んなのが混血しちゃって自分でもよくわかんないって。精液に催淫効果があるってことは、淫魔とかそっち系の血も混じってるんだろ」
「ああ…」
ヒメマルの頭に、本で見たインキュバスやサキュバスの姿が浮かんだ。
「…やらしー悪魔ね…」
「混血の出すのでもあんなにいいってことは、純血のはもっとすごいんだろうな」
ブルーベルの声は浮き立っている。
「ベ~ル~」
いさめるように言っても、ブルーベルは笑っている。機会があれば本当に試しかねない。
-こういうとこが好きなんだから、どうしようもないかぁ。
ヒメマルは弱り顔のままで笑い返した。

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