160.もん
マントでくるんだブルーベルを胸元に抱いてキャドの部屋を出たヒメマルは、自分達の宿へと歩きはじめた。「…指輪…」
階段を下りている時に、ブルーベルが小さく呟いた。
「指輪?ちゃんと拾ってきたよ」
ヒメマルは甘い声で答える。
安心したように、ブルーベルの身体から力が抜けた。
「…取りに行ったんだ…そしたら…」
ブルーベルはヒメマルの胸に額を擦りつけた。
「昨日、キャドと寝た時に落としたの?」
ヒメマルは、声の調子を変えずに言った。
「…、昨日は…、忘れ物、取りに行って…無理に…」
「昨日は忘れ物。今日も忘れ物。本当かな?」
おどけるようなヒメマルの質問に、
「ほんとだよ」
ブルーベルの声が、少しだけ強くなった。
「気持ち良かった?」
「…」
ブルーベルは嫌がるように身体をよじると、ヒメマルの胸元に顔をうずめた。
「あんな声聞いたことなかったなぁ」
ブルーベルの頭が、子供がいやいやをするように小さく振られる。
「…ヒメマルのこと、考えてた…」
「俺の?どんなこと考えてたの?」
「…」
ブルーベルは答えずに身体を縮めた。
「教えてくれないの?」
「…だって…」
「聞きたいなぁ」
「…嫌だよ、照れ臭いから」
「ちぇっ」
ヒメマルは、不満げに唇を尖らせた。
「…ヒメマルさ」
ヒメマルの胸に耳をつけたブルーベルは、また呟くように言った。
「ん?」
「やきもちとか…そういうの、ないのか?」
「ベルは縛られるの嫌いだろ?」
「…そうだけど」
ブルーベルは納得いかないような声を出す。
「ベルはどう?」
「え?」
「俺が他のコとエッチしテっ」
言い終わる前に顎に頭突きを入れられて、ヒメマルは舌を噛んだ。
「あいたー!」
目尻にちょっぴり涙をにじませているヒメマルを、ブルーベルは睨みつけるように見上げている。
「もしもの話だよ~」
「フン」
「…あっ、でもさぁ、ベル。怒ってるってことは、やきもち焼ンガッ」
2発目の頭突きに、ヒメマルの顎がはねあがった。
*
部屋に着いて下ろされたブルーベルは、すぐにふらついてヒメマルに抱きとめられた。「腰にくるまでするからだよ」
ヒメマルが笑いながら言うと、ブルーベルは拗ねるような声を出した。
「したくてやってたんじゃないもん」
-も、「もん」!?
ヒメマルは思わずブルーベルを見つめなおした。
俯いて長い睫毛を伏せているブルーベルは、子供の顔になっている。
-う~わぁ~、かっわいい~
ヒメマルは思いきり相好を崩した。
「とりあえず、お風呂入ろうか。ね?」
覗き込むように言うと、ブルーベルは小さく頷いた。
「お風呂まで歩ける?」
「うん」
ヒメマルはブルーベルを支えていた腕をそっと離すと、上着に手をかけた。
「俺もすぐに行くから、先に入ってて」
「ヒメマル…」
「なに?」
「ビール、あっちに置いてあるから」
「…」