161.貰い物

朝、トキオが部屋を出ると、丁度ティーカップも出てきたところだった。

「よう」
「おはよう」
挨拶を返したティーカップは、観察するような目でトキオの服を眺めた。
「あー…の、お前のくれた服はさ」
トキオはティーカップの横に並ぶと背中に軽く右腕を回して、歩くようにうながしつつ話しはじめた。
「高級品ぽいし、オフに着させてもらおうと思ってんだ」
「大した物じゃないぞ」
ティーカップは歩きながら横目でトキオを見ている。
「…でも、潜る時に着たらすぐ傷むだろ」
「それはそうだな」
「だろ?やっぱほら、…」
「…なんだ?」
「…」
トキオは、唇を軽く舐めた。
「もらったもんは大事にしてえし…さ」
「ふぅん」
-しまった、「お前にもらったもん」って言った方が良かったかな…
トキオがそんなことを考えている間に、ティーカップの視線がすうっと降りた。

「でも、そのパンツも僕が渡した物だろう。大事にしないのか」
「いや、、 えーと。こっちは生地も厚いし…」
「…」
「…その」
トキオはカーゴの尻ポケットに左手を突っ込んだ。
「もらったもんはすぐに着たいってのもあるわけだよ」
「ああなるほど」
ティーカップはトキオの方を見ずに、投げやりな返事をした。
-素直に"ラメ入りの服は着たくない"と言ったらどうだ。
横顔がそう言っているような気がする。

「そ…そんで、あのな。相談があんだ」
「なんだ」
ティーカップの声はそっけない。歩くペースも速くなっている。
トキオは遅れないように早足になりながら、話し続けた。
「置いてある方の服って、俺が着たことない系統なんだよ」
「だろうな」
「どういうパンツ合わせたらいいかよくわかんねえんだよな」
「それで?」
「レクチャーしてくんねえかな」
「そのくらい自分で」
「わかんねえんだよ!」
トキオは足を止め、ティーカップの両肩をがっちりと掴んで、自分の正面に引き寄せた。
「全然わかんねえんだよ。だから今度、服屋行くのにつきあってくれ」
「…」
ティーカップは5秒ほど眉間に皺を寄せてから、呆れたように長い溜息をついて、目を伏せながら頷いた。
*
ギルガメッシュには他のメンバーが既に集まっていた。
「おはよう」
何気ないティーカップの挨拶の後に、
「よっ!」
トキオが弾んだ声で言うと、
「おっはよー!」
「おはよう」
二つの上機嫌な声と、
「あー、おはよぉ」
「おはようございます…」
二つの覇気のない声が返ってきた。
前者は、いつにも増した密着具合でいちゃいちゃしているヒメマルとブルーベル。
後者は、頬杖をついてぼんやりしているクロックハンドと、腕組みで難しい顔をしているイチジョウだ。

トキオはヒメマルとブルーベルの方を見て、
「こっちはいいとして」
元気のない二人の方へ向き直り、
「クロックとイチジョウ、なんかあったのか?」
座りながら訊いた。
「こっちにも色々訊いてよ~」
ヒメマルが口を尖らせるのをシッシッと追い払うようにして、トキオは横のクロックの方へ向きなおった。
「あ、俺のことは全然気にせんでええよ。二股のどっちにするか、決めかねとるだけやから」
クロックハンドは手を振った。
「んじゃ、イチジョウは…」
「わかった!昨日の花びら関係だ!違う?」
ヒメマルが楽しそうに言う。
「…そうなんですよ」
イチジョウは表情を緩めて、話し始めた。

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