129.サーベル
「いよーす、…眠そうだな~」テーブルに両肘をついて頬を支えているヒメマルを見て、トキオは笑った。
ヒメマルはこっくりと頷いたものの、そのまま眠ってしまいそうな風情だ。
隣にいるブルーベルは、対照的な明るい顔でオレンジジュースを飲んでいる。
昨日のケンカはもう終わったらしい。
ティーカップはテーブルに背中を向けて、何かやっている。
肩越しに覗き込むと、見たことのない剣の鞘を磨いているのがわかった。
「細いな」
素朴な感想を呟くと、
「サーベルですよ。昨日のアイテムに入ってたんです」
イチジョウが言った。
「強いのか?」
「カシナートの次くらいだ」
トキオの問いに、ブルーベルが答える。
「なかなかのもんだな」
トキオが腰を下ろすと、ティーカップが振り向いて、テーブルにそのサーベルを横たえた。
「見たまえ、この装飾」
珍しく声に熱が入っている。
トキオはサーベルをじっくりと眺めた。
軽く磨かれただけの状態だが、鞘、鍔、柄に至るまで、かなり凝った細工が施されているのがわかる。ちゃんと手入れすれば、観賞用としても充分価値のありそうな品だ。
「サーベルにも色々あるが、こんなに僕に似つかわしいものは滅多にない」
ティーカップはサーベルを握ると、また磨きはじめた。
よほど嬉しいのだろう、顔が緩んでいる。
「まあそうは言っても、剣である限りは使わないと、それこそ宝の持ち腐れなわけだよ。威力を試してみるという意味でも、僕はそろそろ前衛に」
「却下」
トキオの切り返しに、ティーカップの口が一瞬への字になった。
「ん?これ何だ?」
トキオは、テーブルの上に無造作に転がっている、黒っぽい金属製の小型の武器を手に取った。
短刀にしては、刃の部分に厚みがある。
「手裏剣だよ、忍者専用の武器。クロック行き」
「へ~、シュリケンね~」
手裏剣を物珍しげに眺めているトキオに、
「あんたも早く忍者になれよ」
ブルーベルが言った。
言葉の動機をつかみかねて、トキオは一瞬考え込んだ。
「あんたが忍者になったら、クロックとイチジョウとあんたが前衛になるだろ」
「んー、そうだな」
「だからさ」
ブルーベルは涼しい顔で言って、ストローに口をつけた。
「―…あ、なるほど」
イチジョウが手を打った。
逆に言えば、ブルーベルと、ブルーベルの昔馴染みのティーカップ、ブルーベルの恋人のヒメマルの3人が、後衛になるわけだ。
早く忍者になれというのは、さっさと俺達の盾になれという意味だったらしい。
トキオも、やっとそれに気付いた。
「ひっでえなぁ」
トキオとイチジョウが揃って笑った所へ、
「おはようさーん」
クロックハンドが走ってきた。
「いよう、元気か!」
トキオが景気よく言うと、
「元気や!」
クロックハンドはY字バランスをとってみせた。
「柔らけえー!」
「ふっふっふ」
「あのう、ミカヅキ君は元気ですかー」
小声でイチジョウが訊くと、
「放置!」
スパッと言い切って、クロックハンドは座った。