130.鎧

「あのさぁ、言っちゃっていい?」
ひとりだけ爆弾の餌食になって、マディをかけられたヒメマルが、頬をさすりながら眉をハの字にして、トキオを見つめた。
「なんだ?」
トキオは緊張した面持ちで、ヒメマルの次の言葉を待った。

「…ほんとにヘタ」

「…悪ィ…」
そう言われるだろうとは思っていた。
今日はこれで連続3回、罠の解除を失敗している。しかも、
「罠がなんやわからんうちに作動させとるもんなあ」
クロックハンドが、やや遠慮がちに言う。

「…」
トキオは、がくりとうなだれた。
「まあ、人には向き不向きがありますから」
右側からイチジョウが肩を叩いて慰めたが、
「専門職の意味が皆無だ」
左側でティーカップが呟いた。
「いうてもなー、トキオが盗賊やってんのは忍者になるための通過点なわけやから」
クロックハンドがフォローしなおした時、
「あっ」
後ろで大きな声がした。

「どないしたん、ベルちゃん」
「これ、…聖なる鎧だ」
ブルーベルの手には、さきほどの戦闘で入手した銀色の鎧が抱えられている。
退屈しのぎに鑑定していたらしい。
「さっきのフロストジャイアントですか!?」
イチジョウが傍に寄って、鎧を眺める。
「そう、これ、鑑定前から気になると思ってたんだ」
「フロストって、いいものばっかり持ってるなあ」
ヒメマルが感心したように言う。
「な、これ、かなりレアなもんやろ?どんな効果あんの?」
クロックハンドが興奮気味に聞くと、ブルーベルも昂ぶった声で答えた。
「竜、魔獣系の攻撃の緩和、悪魔、獣人、アンデッド系に2倍の打撃、体力の自動回復、クリティカルヒット発生、力の解放でパーティ全回復」
パーティ全員から、溜息がもれた。

「すっげえな…」
トキオが思わず呟く。
「早速装備しようや!」
クロックに促されて、
「…」
「…」
ロードの2人が、顔を見合わせた。
「当然、前衛が装備すべきだろう」
「いただきます」
ティーカップに譲られたヒメマルが、仰々しく頭を下げた。

つもっていた埃を拭いて、手早く装着していく。
それを眺めているティーカップは、明らかに不満そうだ。
ヒメマルが着けることが気に入らないのではなく、自分が後衛であるが故に装備出来ないということに、納得がいっていないのだろう。
-仕方ねえじゃねえか。
責められているような気がして、トキオはゆっくり唇を舐めた。

「う~ん、思い込みかも知んないけど、なんか力が漲る感じだね!」
装備を終えたヒメマルが、ぐりぐりと肩を回す。
「はよ試そうや~!」
「行きましょうか」
パーティはキャンプを解いて隊列を整えると、いつものように、守衛の待つ扉を開いた。

そこにいたのはマーフィーの集団で、一旦逃げて扉を開けなおすか…、という空気が流れたが、

フラックがいる!!」

ブルーベルがそう叫んだ瞬間には、その小柄な影は、クロックハンドの腹に強烈な一撃を加えていた。

吹き飛ばされたクロックハンドを受け止めたものの、
-石化!?
腕の中で体温を失いながら重みを増して硬化していく感触に、トキオの頭は真っ白になる。

ヒメマルの剣を踊るようにかわし、ブレスを吐かんと大きく息を吸い込んだ道化師を、イチジョウの刃が一閃する。
続いて放たれたブルーベルのティルトウェイトは、傾いたフラックの体と2体のマーフィーを巻き込んで、壁に叩きつけた。


最悪の敵は、完全に動かなくなった。
あとは、残ったマーフィーを片付けるだけだ。

「早くマディをかけてやれ」
ティーカップに促されて、トキオはやっと我に返った。

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