50.方針決定
「あのさ…俺、ひと晩かかってよーく考えたんだけど」10時。全員集合した所でトキオは切り出した。
「ワードナが何者でも親衛隊がどういうもんでも、今はまだ、気にすることないんじゃねえかなあ」
ひと呼吸置いて、
全員が頷いた。
「ひと晩も考えてやっとそこに行き着いたのか?」
ティーカップに言われて、
「うるせえなあ」
トキオが少し赤くなる。
「でも、俺も結構長いこと真剣に考えてから、あ、今慌てて考えることじゃないや、って気がついたよ~」
フォローするようにヒメマルが言う。
「気が早かったよな。エリートクラス一人しかいないパーティが悩む問題じゃなかった」
少し眠そうなブルーベルの言葉に、イチジョウが続ける。
「そうですね。ワードナと対峙出来る強さになるまでの間、じっくり考えればいいと思います」
トキオはそれを受けて、
「そういうわけで、当分は気にせずとりあえず探索続けようぜ!」
と話を締めた。皆、笑いながら頷いた…と思ったが、
「…クロック、どうした?」
クロックハンドは着席してからずっと無言だった。
「ちょっと」
どう見ても不機嫌だ。
「なんか、今の決定に気になることでもあるか?」
トキオが真剣に聞くと、
「あ、ちゃうちゃう、それは賛成。パーティに関係ないとこで、個人的にちょっと腹立つことがあっただけやねん」
クロックは少し表情と声を柔らかくして答えた。
「彼氏とケンカでもしたぁ?」
ヒメマルが少し心配そうに訊くと、
「ん~。ケンカとか以前に…、あいつ外泊しよってね」
呟くような口調だが、明らかに怒っている。
「迷宮で夜明かししたんじゃないですか?」
イチジョウが言う。ベテランパーティにはよくあることだ。
「そういう時は泊まりになりそうやって言うてけって言うてあるもん。許せん」
クロックの顔が険しくなる。
「彼にも、自分が弱い立場だという自覚はあると思いますから…、何か戻れない事情でもあったんじゃないですかねえ」
イチジョウが重ねてフォローする。あの惚れ方を思えば、無断外泊は99%不可抗力だろう。
どちらかというと、何かあったのかも-と、そっちを心配してやった方がいいぐらいだ。
でも、トキオにはクロックの気持ちが少しわかる。
外泊というだけでも許せないのだろうが、昨日は赤竜と戦ったり、ムラマサを見つけたり、ワードナについて意外な話を聞いたりと、色々と話したくなるようなことがあったのだ。
おしゃべりが好きなクロックのことだから、うずうずしながらひと晩中待っていたに違いない。
「ま、でもみんなに当たってもしゃあないし」
クロックは、ぱぁっと笑顔になった。
帰ってきた時にどんなことになるのかを考えると、ミカヅキが哀れですらある。
「探索はええけど、どないすんの?5階から8階は意味ないて言われても、9階行ったら昨日みたいなドラゴンとかがうようよおるんやろ?いきなり行くってわけにはいかへんやんなぁ」
クロックが言う。トキオは深く頷いて、
「それも考えてたんだけどな。5階から8階がトラップだらけなら…当たり前だけど、うろつくのは危ないよな。エレベータの入り口付近で、あまり動かずにモンスターが来るの待って、数こなして、慣れたらひとつ下の階行って、…ってのはどうかな。」
と皆の顔を見た。
「うん。地道だけどそれが一番じゃない?」
ヒメマルが言う横で、ブルーベルが頷く。
「慌てる必要もないことですしね」
イチジョウも賛成だ。
「少し退屈そうだがな」
相変わらずの反応をするティーカップに、トキオが返す。
「スリルが欲しけりゃ1人で行ってくれ」
「ほな行こか!」
パーティは久々に整った状態で迷宮へ向かった。