37.寝不足
クロックハンドがいつもより早めにギルガメッシュに着くと、ブルーベルがテーブルに突っ伏してぐったりしていた。「なんや、ここで夜明かししたん!?」
驚いて尋ねると、半分顔をあげて、
「いいや」
かなり眠そうな声で答える。
「寝不足っぽいなあ。俺もやねん」
クロックハンドが困ったような顔で内股を擦っていると、
「おはようございます」
いつも早いイチジョウがやって来た。
ブルーベルは手を少し挙げて、挨拶代わりにする。
「おはようさん」
「どうしたんです、2人とも」
クロックハンドはやや情けない顔で、
「俺は、やりすぎですぅー」
内股を揉みながら答える。
「体力に合わせないと~」
イチジョウはクロックの頭を撫でて笑った。
「…俺も」
うつ伏せに近い体勢のままでベルが呟いた。
クロックの口がスローモーションでアヒルのように尖る。驚いているらしい。
「だ、誰と?ヒメちゃん?」
テーブルに顎をつけるようにして、囁くように訊く。
「ち が う」
同じように小声で答えると、ベルはニヤっと笑って、目の前のクロックの額を指で突いた。
思ってもみなかったリアクションに、クロックは目をぱちくりさせた。
「うぉあはよおー」
あくび混じりでヒメマルが、その後ろから
「はよーッス」
トキオが寝癖を手ぐしで直しながら入って来た。
馬小屋泊りのヒメマルとトキオが、モーニングを注文する。
「なんか今日は集合早いんじゃない?」
オレンジジュースに口をつけながら、ヒメマルが大時計を見る。
まだ9時半だ。普段は10時に集まることになっている。
「いつもギリギリなのに、珍しいですね」
イチジョウが言う。来ていないのはティーカップだけだ。
「あ、そうだ、丁度いいや」
トキオは、メンバーに僧侶への転職の話をした。
「うん、それ、いいんじゃない?」
「俺も賛成」
ベルも頷く。
「今日はコンディションが悪い人も多いみたいですから、今から訓練場へ行ってしまってはどうですか?ティーには伝えておきますよ」
イチジョウの言葉に全員同意して、トキオは訓練場へ向かうことになった。
「じゃあ、とりあえず1時集合、ってことで!行ってきまっス!」
トキオはシャキっと立ち上がると、敬礼して出て行った。
「行ってらっしゃーい」
その背中に、クロックハンドが両手を振る。
「効率はいいけど、加齢のリスクとかあるわけじゃない?よく思い切ったよね」
見送りながら、ヒメマルが感心したように言う。
「ティーの助言らしいですよ」
「そうなん?」
「1時まで寝てていいかな…」
ブルーベルがほとんど眠りながら言った。
「ティーには私が伝えますから、皆さん自由にして下さい」
イチジョウが言う。
「ほんと?」
「助かる…」
「ほな俺も寝よう~」
イチジョウを残して、3人は席を立った。