38.CC
ベルはエコノミーの自室に戻る途中で、昨晩寝た軍人の1人に会った。痩身の男、CCだ。
1人につき三回ずつ相手をしてすっかり体力を消耗したベルは、気がついたらこの男にバスルームで洗われていた。
このロイヤルスイートはCCのとった部屋で、他の2人は帰ったという。
自分がとっているエコノミーよりロイヤルスイートのベッドの方が良かったので、結局朝まで泊まったのだ。
寝入りばなに少しだけ話して、その時に本名も聞いていた。
「今日は潜らないのか?潜れないかぁ」
私服のCC-キャド・シンクレアは、煙草を咥えながら笑った。
昨日のきらびやかな軍隊用の鎧とマントとはうって変わったイメージの、カウボーイ風の装いだ。こちらの方が似合っている。
服装の傾向の違うヒメマルは、この手のコーディネートはどう見るのかな…等と思いながら、
「おかげさまで」
ブルーベルは眠い声を出す。
「俺の部屋で寝るか?」
「俺が寝てる間、あんたが出かけてくれるならね」
キャドは大笑いした。
「そりゃそうだ、寝てられないよな。俺も眠らせるつもりないしよ」
「どういうことですか?」
後ろから、嫌な声がした。
ブルーベルは不快感丸出しの仕草で、額を押える。
「あなたはヒメマルさんとつきあってるんじゃないんですか?」
アインが険しい顔をしている。
「なんだぁ、このぼくちゃんは?」
「あなたこそ何ですか?」
キャドは両掌を上に向けて肩を竦めると、やれやれという顔になった。
「部屋借りるよ」
ベルは手を出して、キャドから部屋の鍵を受け取った。
「逃げるんですか!?」
-うるさい…
眠いし、身体も疲れたままだ。
時間が勿体無いと思ったブルーベルは、アインを無視して宿へ入った。
「ちょっと!」
追おうとするアインの腕を、キャドが掴む。
「あの子は疲れてんだよ。なんだか知らないけど、またにしな」
「あなたはあの人とどういう関係なんですか!?」
「ぼくちゃんがそんなこと訊いてどうするんだ?」
「ぼ、ぼくちゃんじゃありません!!アインって名前があります!そ、それに、僕には知る権利があります!」
「俺には言う義務はないぜ」
キャドは掴んでいた腕をつき放すように押した。アインがよろける。
「言えないってことですか?」
腕をさすりながら、精いっぱい挑戦的な目で言う。
「ああ、なんとでも思いな。もういいな?」
テンガロンを少し目深にかぶりなおすと、キャドは城の方へ向かって歩き出した。
「じゃあ、勝手に思わせてもらいます!あの人が、恋人を裏切ってて、あなたはその浮気の相手だって!」
キャドは振り返らずに肩を竦めた。