39.どう思う
ティーカップは10時の少し前になって現われた。「他の連中はまだか?」
「トキオ君が僧侶に転職しに行ったので、1時まで自由行動になったんですよ」
イチジョウが簡潔に説明する。
「ああ」
納得したティーカップは、イチジョウの正面に腰を降ろした。
ウェイターを呼んでビールを注文する。
すぐにジョッキが運ばれてきた。
-起き抜けにジョッキか…
ドワーフのようなエルフだ。
この男は、イチジョウの持っているエルフの概念からなにかとはみ出してくれる。
パーティに誘われた時に頷いたのは、興味深さからだった。
「体調はどうですか?」
「ひと晩寝たらすっかり良くなった。今日は楽に探索出来そうだ」
「トキオ君が転職直後でも、なんとかなりそうですか」
「4階なら問題ないだろうな」
そんな調子でしばらく迷宮関係の話を振っておいて、イチジョウは不意に突っ込んだ。
「ティーは、トキオ君のことをどう思ってますか?」
ティーカップの動きが止まった。
「どう思うって何だ?」
質問の範囲が広すぎるらしい。
パーティの仲間としてではなく、個人的な印象を-と言おうとして、子供っぽい質問だとか、厚かましいだとか、余計なお世話だとかいう言葉が頭に浮かんだ。
自分自身プライベートに立ち入られすぎるのを好まないイチジョウは、元来人にも立ち入る方ではない。
円形土砦跡で、おせっかいだと思いながら説教じみたことを言ったのも、自分の本分ではないと自覚しながらこんな会話をしようとしているのも、トキオが可愛いくて、気になってしまうからだ。
とはいえ恐らく恋愛感情云々ではなく、父性本能(?)に近いものだと思う。自分にそんなものがあるとは思っていなかったが-とにかく何か、放っておけないのだ。
ティーカップは、イチジョウの返事がないので自分で質問の意味を考えているらしく、じっと目を閉じている。イチジョウは、答えを待った。
「ああ、うん、これだな」
思案の末、ティーカップは顔をあげた。
「からかいがいのある男だ!」
イチジョウは、なんともいえない顔になった。
三秒ほどして、
「…ほ、他には?」
聞き返すと、
「そうだな」
考え込む。と、すぐに大きく頷いて出た言葉は、
「でかい!」
「…」