40.新しい
-うわっ。これからウィンドウショッピングに勤しもうという時に、一番会いたくない子に会ってしまった。
「おはようございます、ヒメマルさん!」
きっちりとした角度で頭を下げる。
「あ、おはようー」
片手をあげて軽く返し、そのまま立ち去ろうとしたが、
「待って下さい、お話があります!」
まあ、しのげると思ってはいなかったが。
「何?」
「あの、こんなこと言ったら、告げ口みたいで嫌なんですけど、僕、許せないんです!」
「…うん、何が?」
なんだかわからないが、早く店に行きたい。
「ヒメマルさんは、つきあっている人が、他の人の部屋で寝ていても平気なんですか?」
「え?」
「あの青い髪のエルフ…さん、別の人の部屋に泊ってるみたいですよ」
胸の奥が、小さく痛んだ。
-あれ?こりゃあ…
「ヒメマルさん、知らなかったんじゃありませんか?」
「ん、ああ、まあね」
「まあね、じゃないですよ、許せるんですか!?」
「あのね…」
ヒメマルは、大きなため息をついた。
「彼が誰かの部屋に泊まるのも、それを俺が許すかどうかも、全部俺と彼の問題で、君にとやかく言われることじゃないんだ」
アインがぐっと唇を噛んだ。
「でも、僕が伝えなかったら、ヒメマルさん知らなかったんじゃないですか。ばれなかったらいいっていうのって、違うと思います」
「ん~、まあね。でも、それは君の価値観だから」
「…ヒメマルさんは、許せるんですか?」
「そうだね~、どっちかっていうと、バレなきゃ浮気じゃない派かな」
「寛大なんですね…」
-寛大とはちょっと違う気がするけど…
下手に口に出すとなお面倒が増しそうなので、あえて言わないでいると、
「そんなことをしてても許されるくらい、ヒメマルさんに愛されてて…。それなのに、浮気するなんて…」
-いや、あの…
「僕、色々…考えてみます。失礼します」
勝手に自己完結すると、アインは頭を下げて行ってしまった。
-これで、諦めてくれるといいんだけど…そう簡単には行かないか。
ヒメマルは、前髪をつまんで見上げた。
新しい髪型にしてから、外見が幾分おとなしくなっている。
突拍子もない格好になれば、アインの目も覚めるかも知れない。
-転職する時、思いっきり奇抜な格好にしちゃおうか。うん。決定。
-それにしても…
胸に手を当ててみる。
-さっきのは…新しいな。
笑みが浮かんできた。