13.忍者と侍

忍者はやや痩身で、意思の強そうな目付きをしている。プラチナに近い綺麗な金髪を逆立てたヘアスタイルだ。二十代前半ぐらいだろうか。なかなかの色男だと、トキオは思った。

「フィリップ」

忍者は、呟くようにそう言った。
明らかにこちらを見ているのだが、パーティの他に周囲に人はいない。
-人違いか?でも、こういうのがきっかけになったりもするんだよな~
トキオは妙な期待をしてしまう。
忍者はこちらへ歩み寄って、またその名前を呼ぼうとした。
「フィ…」
「やかましわ!!」
いきなりクロックハンドが叫んだ。

「お、おい」
トキオが慌てたが、
「フィリップフィリップ言うなボケ!」
そう怒鳴ると、クロックハンドはあまり見せたことのない険しい顔で、パーティの方を向いた。
「俺ちょっとこいつと話するから、先に酒場行ってて」
メンバーは顔を見合わせた。
「あ…あぁ」
トキオが頷くと、クロックハンドは忍者の方へつかつかと歩いて行き、乱暴に手首を掴んで一緒に去っていった。
*
「クロックハンドてのは通り名だったんだな」
2人が行ってしまってから、トキオは呟いた。盗賊だけでなく、冒険者が通り名を使うのはよくあることだ。
「んーじゃあ、俺らはギルガメッシュでメシでも食っておくか」
パーティに提案する。
「そうですね」
イチジョウが頷いたのを合図に、5人は歩き出した。

「あれさあ、クロックのカレシかなぁ?いい男だったよね~」
ヒメマルが興味津々の笑みを浮かべて言う。
「あ、ヒメマルもそう思ったか?」
トキオが相槌を打つ。
「思ったよー!…ん?」
ヒメマルが立ち止まる。他の4人も、ヒメマルの見ている方にいる人物に気付いて、足を止めた。

今度は侍と思しき男がこちらを見ていた。切れ長で黒い目の、落ち着いた雰囲気の男だ。

「…?」
「…」
「?」
「??」
メンバーは皆、自分には関係ないという顔をしている。どうも今度は誰の知り合いでもないらしい。

サムライは、静かに低い声で喋った。
「イチジョウ殿」

「…は、…?私ですか」
イチジョウは、きょとんとした顔で自分を指差した。
「少々話がしたい。よろしいか」
「…」
イチジョウはトキオの方を見た。
「酒場で待ってる」
トキオは笑顔で答える。イチジョウは、侍の方へ向き直って言った。
「ご一緒しましょう」
「では」
侍はパーティに一礼し、イチジョウと共に酒場とは別の方向へ歩き出した。
*
ランチを頼むと、4人はテーブルについた。

「ナンパかなぁ~」
ヒメマルはこの手の話が好きらしい。
「どうだろ。なんかイチジョウと似た系統の顔してたよな」
トキオもそういう話が嫌いではない。
「だよね、東の方の国の人かな」
2人が話している横で、ブルーベルは黙々とつきだしを食べている。
ティーカップは眠そうだ。
「ベルとかティーは、恋愛沙汰って興味ないの?」
ヒメマルが不思議そうに聞く。
「人の話なんかどうでもいいじゃないか」
そう言ったティーカップをちらりと見て、ブルーベルは微かに笑った。

「俺は好きなんだけどな~、人の恋の話」
ヒメマルが唇を少し尖らせる。トキオが笑った。
「俺も好きだぜ。ヒメマル自身のそういう話ってないのかよ?」
「俺ぇ?俺は今はないなぁ~。トキオは?」
「俺もまあ…目移りはするんだけどさ」
「気が多いんだよね、俺もだよ~」
2人だけが盛り上がっている所に、クロックハンドが先程の忍者を連れて入ってきた。

「一応紹介しとくな。こいつ、同郷のミカヅキていうねん。この街には来たばっかりらしいわ」
クロックは隣の忍者を親指で差した。
「よろしく」
「クロックのカレシ?」
ヒメマルが得慮なく聞く。
「そんなええもんとちゃう」
「えっ」という顔で、ミカヅキがクロックハンドの方を見た。

「カッパ君、今後は彼とパーティを組むのか?」
ティーカップの言葉を聞いて、メンバーの視線がクロックハンドに集まる。
「ううん、こいつはこいつでエリートクラスと組むって」
「良かった、お前に今抜けられちゃあな」
トキオがほっと息をつく。
「頼まれてもこいつなんかと組まへんて」
また「えっ」という顔でミカヅキがクロックハンドの方を見た。

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