12.転職予定

2階の探索は順調だ。
毒と麻痺を食らうことがやたらと多く、回復役を1人でこなすイチジョウは忙しい。
魔術師の二人も、グループ攻撃呪文でよく働いている。
クロックハンドは、宝箱にろくなものが入っていないと不平をもらしていた。

「なんで10GP?宝箱の中にこんなはした金入れんでええっちゅうねん」

それでも、カエルの置き物に続いてクマの置き物を見つけた時はしばらく機嫌が良かった。

思ったほどには面倒な状況も起こらず、2階もほぼ調べ尽くしたと思われるころ、
「一度、転職が可能かどうか調べにいきませんか」
というイチジョウの提案で、その日の午前は訓練場に向かうことになった。
*
パーティは訓練場での能力判定を終えると、再び集合した。忍者への道はまだまだ遠いのはわかっているから、トキオは他のメンバーが気になって仕方ない。

「どうだったティーカップ」
「もう少しでロードになれると言われた」
「え!?」
ティーカップは能力判定結果の書かれた紙をトキオに見せ付ける。
「近々パーティ初のロードが誕生するということだよ、トキオ君。楽しみにしていたまえ」
流し目のような視線でトキオを舐めると、ティーカップは誇らしげな笑みを浮かべた。
「マジかよ…」
焦りと嫉妬に似た感情がふっとよぎる。

「トキオはどうやった?」
クロックハンドが聞いてくる。
「…俺は忍者志望だから、まだまだ先なんだよ。クロックの転職予定は?」
「俺は一生盗賊のつもりやねん、天職っちゅうの?ごっつ自分に合ってると思うし」
「そういう感じするな。そういや後衛のみんなの転職予定は聞いてなかったっけか」
「俺はビショップに」
ブルーベルが即答した。
「ヒメマルは?」
全部呪文覚えてからロードになろうかな~と思ってるんだけど」
「そりゃいいな。イチジョウはサムライだよな?」
「ええ…そうなんですが、どうも…」
イチジョウは自分の能力判定の書かれた紙とにらめっこしている。
「どうしたんだ?」
「…もう転職出来てしまうみたいなんですよね」
「え?」
「能力的にはもう転職可能ということなんですが…僧侶呪文を覚えきってから転職した方がいいでしょうかね」
「やっぱり全部覚えてからの方がいいんじゃない?勿体ないよ~」
ヒメマルが言う。
「そうですねえ」
イチジョウは頷いた。

トキオは、自分の手元にある紙を改めて眺めた。
-なんで知力の評価がこんな低いんだよ…。
訓練所を出た当初は、もう少し高い評価をされていたはずだ。経験を積んでいるのに、何故下がっているのかわからない。頭は使っているつもりなのだが。
-遠いな~、忍者…
溜息をついた時、トキオは前方に全身黒ずくめの、まさに忍者らしき男が立っていることに気付いた。

彼はこちらをじっと見ている。

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