7.治療薬

夕方になって、やっとティーカップは身体を起こした。
体のいたる所にまだ疲労が溜まっているのがわかる。

けだるい。不愉快だ。

オークなんかの所為でこんな気分になるのは最低だ。
服も着替えずに寝てしまったから、お気に入りのマントから馬の匂いがする。
気分が悪い。

足音に気付いて目を向けると、入り口にトキオがいた。
「昨日見っけたやつ、治療薬だったぜ」
小瓶を片手に持っている。

「飲めばディオス程度の効果があるってよ。ほれ」
小瓶をティーカップに手渡して、トキオは言った。
「ビショップの識別か?」
「俺が識別出来るわけないだろ」
「だから聞いたんだ」
ティーカップは、小瓶の蓋を開けると一気に飲み干した。
血管を伝って心地良い感覚が広がってゆく。

「識別してもらうのに結構苦労したんだぞ、感謝しろよ」
「…なんだか君、生ぐさいぞ」
「マジか!?風呂入ったけど」
トキオは慌てて袖や胸元に鼻をつけ、臭いを嗅いだ。
「どういう苦労をしたんだ」
ティーカップは瞼を半ばまで下げて、冷ややかな目でトキオを見る。
「…うるせえなあ。肉体労働だよ」
「なるほど?」
ティーカップがトキオの尻をしげしげと見つめると、
「違う、こっちじゃねえ!」
トキオは赤くなって尻に手をあてた。何をしたのか自分で白状しているようなものである。
-…ああ、そっちの経験はないのか。
ティーカップは小さく肩をすくめた後、大きく両腕を広げてから胸で交差させ、大袈裟に頭を下げた。
「いや全くありがとう。恩にきるよ。身体を張って識別してもらった薬を譲ってくれるとは、なんて素晴らしい友人だ。涙が出そうだ」
「…お前なあ。…まあいいや。どうだ、全快したか?」
「多分な」
「じゃあ、明日からまた潜れるな。今度は無茶苦茶すんなよ。愛想つかされるぞ」
「誰に」
「他のメンバーに決まってるじゃねえか」
「君は尽かさないのか」
「俺含む!お前以外のメンバーだ!」
「ふうん」
「わかってんのか?」
「何が?」
「…もういい…」
実のある会話を諦めて、トキオは干し草の上に転がった。
*
日が落ちてから、ヒメマル以外のメンバーが馬小屋に戻ってきた。
一番心配だったブルーベルもいる。

「ヒメマル君は友人の所に宿泊するそうです。朝には来ると言ってましたよ」
イチジョウの報告を受けてうなずくと、トキオはメンバーに明日また潜るつもりだと伝えると、皆、了解してくれた。

「そうか~、あれは治療薬やったんか~」
クロックハンドは、自分が開けた宝箱に入っていた物が役に立ったのが嬉しいらしい。
「助かったよカッパ君」
「カッパ言うなて!!」
それでも素直に感謝したところを見ると、ティーカップは相当参っていたようだ。
これならもう無茶はしないだろう。…と思う。多分。

「じゃあ明日10時、ギルガメッシュで集合ってことで」

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