6.ビショップ
朝起きると、イチジョウが来て、ディオスをかけてくれた。「あー、やっと本調子って感じだ」
トキオは大きく伸びをする。
「私も全快しましたが…彼だけは、今日使える分のディオスでも回復しそうにありませんね」
イチジョウは、やんちゃな子供を見るような笑顔で、横でまだ眠っているティーカップに目をやった。
先に元気になったら何を言い出すかわからないから、あえてティーカップの回復を最後にしたのだろう。そんなイチジョウの意図に気付いて、トキオは小さく笑った。
「じゃ、今日は自由行動だな」
「そうですね。他のメンバーは、もう街に出ましたよ」
「…ブルーベルがなんか言ってなかったか?」
昨日のことを思い出して、トキオは訊いた。
「特に何も。何かありましたか」
「こいつに愛想つかしてそうな感じだったからさ」
「次に彼が突っ込んだら、ひきずってでも逃げましょうね」
そう言って笑うと、イチジョウは馬小屋を出て行った。
その背中を見送りながら、トキオはしみじみと
-落ち着きのあるメンバーがいて良かった…
と思った。
*
朝の準備運動をしてから、トキオは軽装でギルガメッシュへ向かった。昨日の戦闘後に見つけた<?くすり>を、識別してくれるビショップを探す為だ。
ボルタックに識別を頼むと法外な値段を取られるのがわかっている。
多少払ってでも、酒場にいるビショップに識別してもらう方がいい。
地下1階で見つかる程度のものだし、薬なら呪われることもない。断られることはないだろう。
Eのビショップに頼めば、まず間違いなく識別料を取られる。
Gのビショップなら無料で識別してくれるかも知れないが、GとEが酒場で話すことを嫌がる者もいる。トキオは、気を使わないでいい方を選ぶことにした。
酒場に入って、見渡してみる。
GかEかは、座り方だけでも大体わかるものだ。
奥の方に、片肘を付きながら飲んでいる、それらしい男が見えた。
18、9ぐらいだろうか、いかにも後衛という体格がローブごしにもわかる、中性的な青年だ。
顔立ち自体は物静かそうだが、態度と目付きがどう見てもEだった。
トキオは男のテーブルの前まで行き、話しかけた。
「よお、あんた、ビショ…」
「識別か?」
よく頼まれるのだろう。ビショップは、ピーナツを齧りながらトキオをジロジロと眺めている。
「ああ、1階で見つけた薬なんだけど、いくらぐら…」
「一律5万GP」
「へ?」
10GPの簡易寝台にも泊まれないのに、払えるわけがない。一階で見つけたと言っている相手にこんな金額を出してくる時点で、識別する気がないのだろう。そう思った時、
「あんた男好きか?」
ビショップは唐突に聞いてきた。