5.馬小屋

「ふあーっ!」
トキオは干し草の中に思い切り倒れこんだ。
続けて、近くの干し草にティーカップがどさりと寝転がる。
*
初めての迷宮探索は、さんざんなものだった。
入り口からそう遠くない場所でコボルドのパーティ3つと戦った。訓練所で習得した技を試すような手探りの戦闘だったが、皆それなりに動けていたと思う。初日だし、無理せずにそろそろ帰るか…と来た道を戻ろうとした時、オーク5匹のパーティにぶつかった。

体力も消耗していたし、逃げようかという話をしている最中に、ティーカップが1人で切り込んで行ってしまったのだ。
オークは怪物としては強い部類ではないし、少し強い相手を見るとすぐ逃げ出すようなモンスターなのだが、ボロボロの初心者パーティには充分な強敵だった。

結局、一番ひどい目にあったのはティーカップだったが、フラフラのくせに、
「あの不愉快極まりない顔を見るとじっとしていられないじゃないか」
などと言う。トキオは疲れ果てて、文句を言う気力も湧かなかった。
「まだわずかなディオスしか使えませんから…宿泊は馬小屋ですよね。それなら、前衛全員を全快させるには、2、3日泊らないと
イチジョウがそう言い、満場一致で今夜の宿へと直行したのだった。
*
「なんかオークに恨みでもあんのかよ」
寝転がったまま、トキオが聞く。
「ない。顔が嫌いなんだ」
「おいぃー」
あまりに雑な理由に、トキオはぐったりとした声を出す。ティーカップはもう寝息を立てていた。
「お疲れ~い」
クロックハンドが前を通って行った。眠る場所を適当に探しているらしい。
魔法を使う相手には出会わなかったので、攻撃を受けたのは前衛3人だけである。後衛は元気だ。
「おう…」
トキオは軽く片手を挙げるのが精いっぱいだった。

「リーダー」
静かな声だ。ブルーベルか。
「…んん…?」
「起き上がらなくていい。質問がある」
「…なんだあ」
「この人はいつもああなのか」
横で眠っているティーカップのことだろう。
「…そうだなぁ、大体こんな感じじゃねえかなあ」
「そうか」
行ってしまったようだ。

のパーティは、ひとりはみんなの為に、みんなはひとりの為に、という形で成り立っている。
Eのパーティは、自分の安全の為にお互いを守る。
そこにティーカップみたいな者がいると、他人の為に必要以上の無理をすることになってしまう。
Eはそういうことを一番嫌う。

早速抜ける奴が出るかも知れないな…と、おぼろげに思いながら、トキオは眠りに落ちた。

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