4.迷宮入り口
クロックハンドは、イチジョウにも好みのタイプを聞いている。「そうですね、男の子らしい、男らしい、というのが伝わってくる人でしょうか」
「例えばどんなん?」
「簡単に言えば、元気が良いとか、思い切りがいいだとか…私の基準だとそういう感じですね」
「ふぅーん」
イチジョウの口調は柔らかいが、言葉がはっきりしている。
トキオはこういう男も好きだ。
「ヒメちゃんは?」
「センスのいい人だね。オシャレがわかるっていうか?」
「ヒメちゃんオシャレやもんな~」
「…」
トキオには、色とりどりのヒラヒラした服を着こなす男のセンスは上手く理解出来ない。似合っているのはわかるのだが。
派手な色のマントをつけているティーカップなら理解出来るだろうか、と見てみると、大あくびをしていた。これから初めての戦闘に赴くというのに、毛ほども緊張していないようだ。
-ガチガチになるのも困るけど、あんま弛緩されてもなあ。
コボルドぐらい、となめてかかって全滅した初心者パーティの話は、訓練場でよく聞かされた。ティーカップもそれを聞いていたはずなのだが-
-肝が座ってんのか、なんも考えてないのか、わっかんねえ。
トキオは微かに首を傾げた。
前衛が、トキオ、ティーカップ、イチジョウ。
後衛に、ヒメマル、クロックハンド、ブルーベル。
「この若さで死にたくないしぃ、頑張ってね~前衛さん」
ヒメマルが、いかにもEらしいことを言う。
「お前のヒラヒラにつられて怪物寄ってくるかも知れねえぞ」
「えぇ~マジぃ!?やだなぁ、じゃあ俺隊列の真ん中に入れて隠してよ~」
服装を変える気はさらさらないらしい。
「一応、リーダーを決めておきませんか」
イチジョウが言った。
「そうだな。色々モメた時には、とりあえずそいつの意見を基準にするってことで…」
「君がやれ」
トキオが言い終わらないうちに、ティーカップがいきなり言った。
「!? なんで俺だ!?パーティ集めたのティーカップだし、イ、イチジョウとかの方が、落ち着いてて、向いてそうじゃねえか」
リーダーという立場が自分にまわってくると思っていなかったトキオは、かなり慌てている。
「私もトキオ君で異存はありませんよ」
イチジョウが頷く。
「俺もぉ」
「ええんちゃうの」
ヒメマルも、クロックハンドも、
「…」
ブルーベルまで頷いている。
「良かったなトキオ君。君の見事な判断のおかげで全滅したって、誰も怨んだりしないから安心したまえ」
ティーカップがトキオの肩を叩く。トキオは拗ねたような顔で言った。
「やな奴だなお前。俺だってEだ、そういうことに責任感じたりする気ねえよ。なんかあったら、俺を選んだ自分達を恨め」
「素晴らしい。完璧な利己的パーティだな」
何がそんなに嬉しいのか、満面の笑顔だ。この男は根っからのEらしい。
「それよりお前、言い出しっぺなんだから、俺の判断には従えよ。暴走したりすんなよ」
トキオが釘を刺すと、ティーカップは涼しい顔をした。
「それなら僕が暴走せずにすむような判断を下すのが君の役目だ」
先が思いやられる。