357.リュート
「なんだかんだ言っても、トキオの失敗、少なくなってきたんじゃない?大分慣れてきた感じ?」二、三戦目を無難に終えて、四戦目の宝箱を調べているトキオの後ろで、ヒメマルが言った。
「やっと人並み程度だ」
トキオの背中を眺めながら、ティーカップが言う。
「たまには君が開けるか?」
ティーカップに視線を向けられて、クロックハンドは首を振った。
「いやー、トキオに練習してもろてええよ」
「勘が鈍らないか」
「俺も夜、別口で潜ろうかなぁと思てね。そっちでやるわ」
「それ、一緒に潜る人は、もう決まってる?」
ブルーベルが訊く。
「ミカヅキと潜ってみよかなーと思うてるだけやねん、あとは特に考えてへんよ」
「ミカヅキと一緒に、俺と潜らない?」
「あ、そやなあ!一緒に行かせてもらうわあ」
「ありがと」
ブルーベルの顔が綻ぶ。
「潜るっちゅう話は、まだミカヅキに言うてへんから、明日からになると思うけど」
「ん、わかった」
「開いたぞー」
トキオが立ち上がり、手を掃いながら皆の方へ戻ってきた。
入れ替わりに、ブルーベルが宝箱に歩み寄る。
*
この日も実用的な戦利品は特になく、換金して分配を終えたパーティは、夕食のテーブルについた。雑談しながらの食事が終盤にさしかかった頃、ヒメマルは後ろから肩を柔らかく叩かれた。
振り返ると同時に、後ろにいた人物が屈んで、ヒメマルの耳元に何か囁く。
「あ、それじゃあすぐ行くよ~」
ヒメマルは荷物をまとめはじめた。
待つ間、後ろの人物-へスは、テーブルを見回して、軽く目礼した。
「じゃあベル、行って来るね~。ちゃんと迎えに来るからね、一人で帰っちゃ駄目だよ」
「うん」
ヒメマルはブルーベルに手を振ってから、他の4人にも手を振って、ヘスと一緒に店を出て行った。
「ヒメちゃん、どこ行ったん?」
クロックハンドに訊かれて、ブルーベルが答える。
「ヘスに、楽器教えてもらうんだって」
「へえ~!」
「ヘスって楽器も出来んのか…」
トキオが感心したように言うと、イチジョウが首を傾げた。
「どういう方です?」
「あ、イチジョウはヘスと組んだことなかったっけか。夜のパーティでたまに組むんだよ、ビショップで、服のデザイナーもやってる」
「ほう、デザイナーなんですか」
「あと、カイルの兄さんだよ」
ブルーベルが付け加える。
「マジで?」
「あー、わかる気ぃするなー」
クロックハンドが頷いている。
「楽器って、何教えてもらうんだ?」
トキオが訊く。
「リュートだって」
「リュート…って、あれだろ、ヒメマルは弾けるんじゃねえの?」
トキオは、祭りの時に弾き語りしていたヒメマルの姿を思い出しながら、ポーズをとって言った。
「うん、特別な弾き方を教えてもらうんだ」
「そっかあ。一対一で教えてもらうのか?」
トキオが思案顔で言う。
「うん」
「二人っきりって、心配じゃねえ?」
ブルーベルの表情が止まった。
「君はなんでもかんでも心配しすぎなんだ」
ティーカップが呆れたようにトキオを見る。
「だってよぉ」
トキオは唇を尖らせた。
「まあ、ヒメちゃんが浮気っちゅうことは、まずなさそうやけどなあ」
「ですねえ」
クロックハンドが笑い、イチジョウも頷いたが、
「…ヒメは…、でも…ヘスが…、…かな…」
ブルーベルは小さい声で呟きながら、真剣に考え込んでいる。