351.…
安定した狩りを終えて、イチジョウのパーティは地上に戻ってきた。「では」
ライジャがすぐに踵を返して、宿への道に向かって歩き始める。
「あっ、ありがとうございました」
イチジョウが礼を言うと、ライジャは振り向いて頭を下げ、すぐにまた踵を返した。
「んじゃ俺もこれで!」
アーチの声に、イチジョウは振り向いた。
「本当に助かりました、ありがとうございました」
「いやぁ、いい勉強になったっすよ。ダブル、飲まねえか?」
「おう。そんじゃ俺ら行くわ、じゃな!」
ダブルがアーチの肩を掴んで、手を上げた。
「ダブル君も、いつも」
「礼はもういいっつの」
ダブルはカラカラと笑って、アーチと一緒に酒場へと向かった。
「では、戦利品を換金しに行きますか」
残ったオスカーに言われて、
「ですね」
イチジョウは頷いた。
「アーチ君はGじゃないんですかねえ。親しいわけでもないのに、無償で手伝ってくれるEがいるとは思えないんですが…」
店への道を歩きながら、イチジョウが言う。
「…気まぐれや、ヒマつぶし、ということもあるんじゃありませんか」
思案してから、オスカーが答える。
「あとは、同じように指輪を少人数で手に入れる方法を知るための、下見だったとか」
「なるほど、そういうことはありそうですね」
「きっとそうですよ」
笑顔で答えて、ふと、オスカーはアーチの胸中を思った。
肩を組んだまま歩き続けていると、
「ありがとな」
アーチがぽつりと言った。
「いや」
ダブルが小さく応える。
「おかげで、気ぃ済んだよ」
アーチは笑った。
「俺とは まるで違うタイプの人だな」
「だなぁ」
「…」
「…」
「悪い人じゃ、なさそうだよな」
「そう言ったろ」
「…言ってたな」
「…」
「…」
「あいつ、昔ッから、本場の侍とか忍者に憧れててさ」
「うん」
「そりゃあ、あんな人がいたら、好きになるよなぁ」
「…かなぁ」
「…」
「…」
「あいつさ、恋愛とか全然免疫ないわけよ」
「…ん」
「…もうちょっとさ、喋ったりしねえと、気持ち伝わらないっしょ」
「…かもなぁ」
「…でも、俺が横から、ごちゃごちゃ口出しちゃ、駄目だよな」
「…だなぁ」
「…」
「…」
「…イチジョウさん、ライジャのいいとこ、わかってくれっかなあ」
「…どうだろうなぁ」
「…」
「…」
「…ダブルよぉ」
「ん」
「今日は、潰れるまで飲んじまっていいかなぁ」
「いいんじゃねえかなあ」
「…グダグダに、絡みまくってもいいかなぁ」
「いいんじゃねえかなあ」
「…泣いちまってもいいかなぁ」
「いいんじゃねえかなあ…」