345.5.普通(2)
「やめないか」ティーカップはたしなめるような声で言って、トキオの両肩を押し上げた。
トキオは不満そうな顔で見下ろす。
「トイレ行ってこいって?」
「…」
ティーカップは無言で眉を寄せる。
トキオはティーカップの胸に額をすりつけた。
「今からトイレ篭んのとか、すげえ、…虚しい」
拗ねるような声を出す。
トキオの頭に手を置いて、思案していたティーカップは、
「…そうだな」
と呟いて、溜息をついた。
「ここでするといい」
「マジで」
トキオは綻んだ顔を上げた。
「ああ」
優しい笑顔を返してから、ティーカップは言った。
「僕は、自慰に耽る君を眺めることにする」
「え…」
トキオの目が泳いだ。
「…な、…眺めんの?」
「ああ」
ティーカップはベッドに肘をつき、上体を起こした。その動きに合わせて、トキオも身体を起こす。二人は向き合って座る形になった。
トキオはあぐらに近い格好で、ティーカップは立て膝で、姿勢を落ち着けた。
「さあ、始めたまえ」
「…さあ、って言われても」
語尾を口の中に篭らせながら、トキオは、あぐらの中心にある自分のものを両手で覆った。
ちらりと目を上げてみる。
ティーカップは、薄い笑いを浮かべてトキオを見ている。
「…」
トキオは俯き、股間に置いた手元をしばらく眺めてから、
「やっぱトイレ行ってくる」
立ち上がろうとして、腕をがっちり掴まれた。
「ここですると言い出したのは君だろう」
「ぃや、でも…」
ティーカップの突き刺すような視線に負けて、トキオはベッドに座りなおした。
「…、」
トキオは再び股間に置いた指をもじもじと弄って、俯き加減のまま、上目遣いでティーカップを見た。
相変わらず、じっとこちらを見ている。
「…あの、そんなに見られてっと、ちょっと…やりづらいってか…」
言っても、ティーカップは視線をはずさない。
「…」
仕方なく、右手で軽く握ってみる。
顔を上げなくても、見られているのがわかる。どうしても手が動かせない。
トキオは両手をシーツの上に揃え、手の甲に額をつけるようにして、身体を丸めた。
「…ごめんなさい、無理です…」
「恥ずかしくなるぐらいなら、はじめから馬鹿なことを言うんじゃない」
呆れたような声が降ってくる。
「だってょ」
顔を上げたトキオは、唇を尖らせた。
やや間があって-少し熱いトキオの頬に、ティーカップの掌がぴたりと当てられた。
顔を寄せられ、尖った唇を軽くついばまれて、トキオの顔があっさり緩む。
ティーカップは、トキオの額に自分の額を合わせて言った。
「見られていると、出来ないか?」
「…ん」
赤い顔で頷いたトキオの唇に、ティーカップの唇が重なった。
口腔を舌先で撫でられて、下がりかけていた身体の温度が、一気に上がる。
唇を離すと、ティーカップはトキオの頬を両手で柔らかく包み、目を覗き込むようにして言った。
「出来るだろう?」
「…ぇ? と」
言葉の意味を理解する前に、また唇を塞がれた。
口付けしたまま、ティーカップの指が、トキオの耳や首筋を滑り、くすぐる。
触れられた場所からぴりぴりと刺激が走り、身体の中心に溜まっていく。
-…こ…のまま、自分でしていい、ってこと、かな…
トキオはすっかり熱くなって屹立している自身に、手を伸ばした。