345.5.普通(1)

冷えているだろうと、ティーカップの肩に腕を回してみると、思ったより暖かかった。
-テンションと一緒に、体温も上がってんのかなあ。
我慢出来るかも知れないと思っていたが、素肌の感触は予想以上に刺激的だ。

-こりゃすぐトイレ行きだ…
トキオは深呼吸をして、目を閉じた。
上腕と胸に当たる髪がくすぐったいな、などと思っていると、
「ぅわ」
いきなり腹を撫でられて、思わず目を開けた。
「…」
トキオは腹に乗せられた手を握り、ティーカップの身体の上に移動させた。
目を閉じると、また手が乗ってくる。
「あのな」
トキオは手を握って、ティーカップの方を向いた。
「我慢すんの大変なんだよ」
ティーカップはつまらなそうな顔をしている。
眉を高く上げた、いかにもティーカップらしいその顔を見ているうちに、じわりと衝動が湧き上がってきた。
トキオはティーカップの頬に軽く口付けしてから、握りっぱなしだった手を離した。
-さっさと一発抜いてこよ。
そう思ってベッドから降りようとした時、左手を掴まれた。
「ん?」
振り向くと、目が合った。
「…トイレ行ってく…」
言いかけたトキオは、口をつぐんだ。
ティーカップの視線が、何か言っている。
「…」
トキオは吸い寄せられるように近付くと、仰向けの体の両脇に手をついて、ティーカップを見下ろした。

ティーカップは静かにトキオを見上げている。
誘われている、としか思えなかった。
トキオはティーカップの髪に両手の指を差し込み、頭を包み込んで、ゆっくり唇を重ねた。
舌が柔らかく絡まって、身体の芯が一気に熱くなる。
ティーカップの右手が、トキオの髪を優しく撫でた。
-…っこ、…これって、OKっつうこと…か?
昂ぶる気持ちを抑えながら、トキオはティーカップの首の後ろに手を回して、ネックレスの留め具をはずした。
唇を離し、胸元からすくい上げたネックレスを、そっとベッドの宮に置く。
改めてティーカップを見下ろしたトキオは、ティーカップの脚の間に割って入り、今度は頭と身体を抱き締めてキスをした。
密着した肌が、熱を帯びてくる。両腕で背を抱き締め返されて、
-昨日は蹴っ飛ばされたのにな、…
火照った頭でそんなことを思いながら、トキオは左手と足を使って、パジャマのズボンとパンツを一気に脱いだ。

唇を頬に滑らせ、そのまま耳朶を噛む。
抑えるような吐息が、ティーカップの喉から漏れた。
トキオはティーカップの身体の側面を撫でつつ、首筋に舌を這わせていく。

鎖骨に軽く歯を立て、乳首にそっと舌で触れると、ティーカップは僅かに身体を震わせた。
ティーカップの両掌に髪を撫でられつつ、しばらく指と唇で胸を愉しんでから、トキオは薄く締まった腹筋に舌を滑らせた。

そのまま下腹部へと動こうとした時、頭に添えられたティーカップの手に力が入って、
「トキオ」
はっきりとした声で呼ばれた。
トキオが顔を上げると、
「そこまでだ」
ティーカップがびしりと言った。

「…え?」
思わず聞き返す。
「そこから下は駄目だ」
冷静な声が返ってくる。
「…、」
トキオはティーカップの胸元までにじり登って、
「や…、あの、」
ティーカップを見上げた。
「…駄目ってのは、口ですんのが駄目、っつうこと?」
「口以外でも駄目だ」
ティーカップはすました顔で言う。
「え」
トキオは一瞬絶句したが、気を取り直して訊いた。
「…手で触るのも?」
「駄目だ」
「…じゃ、あの、…入れるとかも、やっぱ、」
「もちろん駄目だ」
「なんでだよぉぉおおぉ」
トキオは情けない声を出すと、ティーカップにぐったりと抱きついた。

「どうしてそう急ぎたがるんだ」
ティーカップが呆れたような声で言う。
「急ぐとかじゃなくってよ、普通ここまでやったら最後までOKだろぉ…」
「君の普通と僕の普通は違うということだな」
「…もぉお…、ありえねえ…」

トキオは長い間ティーカップの上で脱力していたが、
「わかった」
ベッドに両手をついて身体を起こし、またティーカップを見下ろす形になった。
「んじゃ俺、お前の腰から上だけ触りながら、オナる」
「…な」
予想外の宣言に、ティーカップが返答しそこねる。
トキオはティーカップの耳に甘く噛み付いた。

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