340.子供

「トキオ君」
「えっ、ん?」
思ったよりも本が面白く、メモを取りながらの読書に没頭していたトキオは、慌てて顔を上げた。
先にベッドに入っていたティーカップが、寝転がったままこちらを眺めている。
「いつまで読んでるんだね」
「あ」
トキオはテーブルの上の、光量の多いランプに手をかけた。
「眩しいよな、あっちの部屋で読んでくる」
「トキオ」
「え?」
ティーカップは眉を寄せている。
ランプと本とノートを手に、どうしていいかよくわからないトキオがウロウロしていると、ティーカップはトキオに向かって手を差し出すように両腕を広げた。
「…あ、あっ、うん」
やっとティーカップの言わんとすることがわかって、トキオは手にしたものを全部テーブルに置き、バスローブを脱いでパジャマに着替えはじめた。
枕元にも小さなランプはある。テーブルのランプを消して、トキオはベッドにもぐりこんだ。

ティーカップはトキオを枕にする定位置に収まると、すぐに瞼を閉じてしまった。
「…あの…」
トキオが遠慮がちに切り出すと、ティーカップは薄く目を開いた。
「…こうやって寝んの、って、気持ちいいよな」
声のない笑いが漏れて、ティーカップの肩が一度だけ揺れた。
「なんで笑うんだよー」
「いや」
ティーカップは僅かに首を振って、また目を閉じた。
「…明日、お前は、なんか予定ある?」
気を取り直して、トキオが訊く。
「ネックレスを取りに行ってくる」
「そっか」
予定通り、ビアスと行くのだろう。
「帰ってくんのは夜か?」
「そうだな。食事も済ませてくる」
「…ん」
トキオは、ざわつく気分を抑えるように、ゆっくり息を吐いた。

「まだビアスのことを気にしてるのか」
ティーカップが言う。
「やっぱ、ちょっとはな」
「わからないな」
「そりゃあ、俺とお前じゃ余裕が違うし」
トキオは腕の位置を変えて、ティーカップを抱きなおした。
「でも、もうウダウダ言ったりしねえよ」
天井を見つめて、サッパリとした口調で言い切るトキオの声に、ティーカップは笑みを漏らした。

「…そんでさ、その代わりってわけじゃねえんだけど」
「うん?」
トキオは多めに息を吸って、
「キスマークつけていいか?」
一気に言った。
「…まぁ、構わないが」
「マジで!?」
トキオは勢いよくティーカップに覆い被さった。
「待て、場所…、こら!!」
トキオはティーカップの首筋の上の方 - 顎に近い場所を、思い切り吸っている。
「そこは服で隠せないだろう!!」
「隠せたら意味ねえだろ!?」
「人に見せるものじゃないだろう!!」
ティーカップは吸われた場所に掌をあてて、素早くディオスを唱えた。赤い痕がすっと消える。
「あっ、ひでえ」
「当たり前だ、何を考えてる」
「恋人がいるってわかって、いいじゃねえか」
「馬鹿なことを言うな」
「恋人いんのがわかっちゃまずいのかよ」
「そんなことは言ってない」
「んじゃいいだろ」
トキオは左耳の下に吸い付いた。
「トキオ!!!」
ティーカップはトキオを押しのけようとしたが、全力で上から抱きついてくるトキオの力と体重には勝てない。
「回復魔法切れるまで、何回でもやる」
トキオはティーカップの肩を押さえつけて、お互いの鼻が当たるような距離で言った。
ティーカップは呆れ混じりの表情で、トキオを睨みつけた。
「君がそんなに子供だとは思わなかっ」
ティーカップの言葉は、トキオの唇に遮られた。

Back Next
entrance