336.うん

店の奥からヒメマルとブルーベルが戻ったので、パーティは外に出た。

「このパーティの人は試せないよね~」
「うん」
店を出たところで交わされた、ヒメマルとブルーベルの会話を聞いて、
「何だ?」
トキオが尋ねた。
「あのね」
ヒメマルは小瓶を渡されるまでのいきさつを簡単に説明した。

「それで、これは彼女が今作ってる薬でね、軽い惚れ薬みたいなものなんだって。試してみて欲しいって言われてさ~」
「ほー」
トキオが小瓶を見つめると、
「君の好きそうなアイテムだ」
ティーカップが後ろで言った。
「ぅ、いや、惚れる薬とか、直接そういうのは、あんま、なんか、虚しいと思うし、つうか別に」
「このパーティでは試せないというのは?」
弁解しているトキオを放置して、ティーカップが小瓶を眺める。
「本当にお互い嫌いあってて仲の悪い人2人に飲ませて、って言われたんだよね~」
「ふむ」
「誰か、仲の悪い人達に心当たりない?」
ブルーベルに言われて、皆がそれぞれに心当たりを思い浮かべた。

「…本当に仲が悪い、とまで言えるような人達は知りませんね…」
イチジョウが首を振る。
「そこまで険悪になる前に、距離を取ったりするもんねえ」
ヒメマルが言うと、ティーカップが頷いた。
「合わない場合は、無理にパーティを組まなければいいだけだからな」
トキオも頷く。
「嫌いってとこまでいっちまうことは少ないよな。俺だって、お前と言い合ってる時でも、嫌いってのとはちょっと違ったし」
「今は大好きやしな」
「うん」
クロックハンドの言葉に反射的に答えて、3秒後に
「あ」
トキオは耳までうっすらと赤くなった。
「俺も心当たりあらへんわあ」
クロックハンドが首を捻る。
「そっか…キャドとロイドも、今は険悪じゃないみたいだしなぁ」
ブルーベルが考え込む。
「イチジョウ、追っかけてきてる人らに飲ませてみたらどない?」
クロックハンドが言うと、イチジョウは目をしばたかせてから、慌てて両手を振った。
「彼等とは嫌いあってるわけじゃありませんし、第一あの頭領に飲ませることは難し…、それ以前に、彼と恋仲になるのは困りますよ」
言いながら、イチジョウは猩々の頭領のいでたちを思い起こして、
-ササハラのことがなければ、そういう手も悪くないんだがな…
などと考えた。

「ほな…、あ、GとEの組み合わせなら、おるんとちゃう?」
「あっ」
クロックハンドに言われて、ヒメマルが声を出した。
「いたいた、間違いなく仲悪い人」
「誰」
ブルーベルがヒメマルを見上げる。
「ベルと、アイン」
「…」
ブルーベルは牙を剥き出すような表情を見せてから、
「絶ッッッッッ対イヤだ!!!!!」
吼えるように言った。
「でもさ、一日で効果切れるって言ってたじゃない」
「いーやーだ!!!」
「んじゃ~、とりあえずGとEでそういう人探してみよっか」
これ以上言うと噛みつかれるような気がして、ヒメマルは笑顔で言った。
「うん」
ブルーベルは憮然とした表情で頷いた。
「オスカーにも聞いておきますね」
イチジョウが言う。
「お願い~」
「せやけど、もしおったとしても、ベルちゃんが嫌がってるように、みんな嫌がりそうやなあ」
クロックハンドがもっともなことを言うと、
「本人達には教えずに、飲み物に混ぜる」
ブルーベルは澄ました顔でひどいことを言った。

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