334.呪い

一戦、二戦と無事に終えて、トキオは宝箱と格闘中だ。
他の5人は、いつも通り数歩離れた後ろで見守っている。

「ティーさ」
声をかけられて、ティーカップは隣のヒメマルを見た。
「たまにトキオのこと、守ってるよね」
「…」
ティーカップは少し顎を上げた。
「他職のカバーをするのも、ロードの仕事のうちだからな」
「そうだね~。クロックは守ってあげないの?」
「必要ないだろう」
「なんでえな」
クロックハンドがティーカップの前に、にゅっと首を伸ばして言った。
「君の方が忍者として優れているということだよ、カッパ君」
ティーカップはクロックハンドの尖った唇を指先でプルプルとはじいた。
「トキオは結構センスええと思うけどなぁ」
「攻撃はともかく、守りは基本的に下手だ」
ティーカップは腕を組み、微かに眉を寄せた。
「そやろか?」
「身体に、」
ティーカップは言葉を止めて、
「…とにかく下手だ」
言い切った。
「だから守ってあげたくなるんだね~」
ヒメマルがうんうんと頷く。
「世話が焼ける」
ティーカップの呟きを聞いて、後ろにいたイチジョウが笑いを漏らした。

無事に開いた宝箱からトキオが離れると、ティーカップ以外の4人は宝箱を覗き込みに行った。
「ちゃんと開けられるようになってきた、ちょい時間かかるけど」
トキオが指を開いたり閉じたりしながら、嬉しそうに言う。
「時間がかかるのは構わないから、じっくり取り組め」
「うん」
ティーカップに言われて、トキオは神妙に頷いた。
「君は元々器用なんだから、落ち着いてやれば失敗することは少ないはずだ」
「…え」
トキオは驚いてティーカップの顔を見直した。ふっ と笑みを返されて、
「う、うん」
トキオはどぎまぎしながら答えた。

ヒメマルが戦利品を取り出して、ブルーベルが鑑定している。
「後ろでいちゃついとる気配がするんやけど、気のせいやろか」
宝箱の側にしゃがみこんでいるクロックハンドが言うと、
「ティーとトキオ君ですか。いい雰囲気ですね」
横で同じようにしゃがんでいるイチジョウが笑った。
「トキオは付き合い出してもときめいとって、楽しそうやなあ」
「うぁっ!!」
突然ブルーベルが大きな声を出した。
「どうしたの!?」
ヒメマルが慌ててブルーベルの視線の先、手元を見る。
「やっちまった」
ブルーベルの右手には鑑定していたメイスが握られている。ブルーベルは左手で、握った右手の指をメイスから離そうとしているのだが、メイスはがっちりと握られたままだ。
トキオとティーカップが、ブルーベルの声を聞いて宝箱の側に走り寄ってきた。

「呪いか」
ティーカップが眉を顰める。
「はい、病めるメイスだと思います、…くっそー」
「無理に触っちゃだめだよベル、お店に行って解いてもらおう、ね」
ヒメマルがなだめる。
「いっぺん上がろか」
クロックハンドが天井を指差して言うと、皆頷いた。
「もうッ、なんで自分でなんとか出来ないんだよ!!」
ブルーベルは呪われたこと自体よりも、それを自身で処理出来ないことに苛立っているようだ。
「呪いのことも、そのうち勉強しようよ。さ、行こう行こう」
ヒメマルがブルーベルをメイスごと抱き上げた。
「絶対する!決めた、これ最初に勉強する!」
余程不愉快なのか、ブルーベルは横抱きにされたまま足をバタつかせている。
「じっとしてないと落としちゃうよ~」
パーティはヒメマルを先頭に、地上への魔方陣へ飛び込んだ。

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