330.未練

夕方に目を覚ました二人は、ルームサービスで昼夕を兼ねた食事を摂った。

それからずっと、ティーカップは買ってきた服とマントの組み合わせを模索し続けている。
トキオはというと、テーブルに座って、
「このブラウスよりさっきの方が合うだろうか、どう思う」
「ん~、それだとちょっと色数多すぎるかな」
「ふむ」
ティーカップに意見を求められては、答えている。
センスが好みに合っているのか、ティーカップはトキオのアドバイスを素直に参考にしているようだ。

鏡とにらめっこしながら次々と着替えるティーカップを見るのは、楽しい。
きっちりと着込んだ姿、ボタンをはずして脱ぎかけのまま次の服を選んでいる姿、服を脱ぎ捨てて上半身裸で腕組みしている姿。どの姿も目に嬉しい。
時折、ただ服を脱ぎ着しているだけのティーカップの仕草や表情に、どきりとすることがある。
-妙に男臭ぇ顔する時あるんだよな~。
そんなことを思いつつ眺めているからか、トキオは全く退屈していない。

「…ん」
ふと、トキオの背中側にある窓の外の暗さを見て、
「今何時だ?」
ティーカップが言った。トキオがベッドの方へ首を伸ばして時計を見る。
「えーと…え!?8時過ぎてる」
「そんなに経ってたのか」
たまに休憩を入れていたとはいえ、2時間以上鏡の前に立っていたことになる。ティーカップは服をまとめ始めた。
*
待ち合わせた時間になったので、ブルーベルが酒場を出ると、
「ベ~ルっ」
予告通り、鎧に身を包んだヒメマルが待っていた。
「ほんとに着てくると思わなかった」
ブルーベルが呆れたように笑う。
「あれ、ヒメマル君も潜ってたんですか?」
横からイチジョウの声がした。見れば、ダブルとオスカーも一緒だ。
「ううん、迎えに来ただけだよ。夜道の変な人からベルを守る係~」
ヒメマルが答える。
「なるほど」
「それじゃね、おやすみ~」
ヒメマルがブルーベルの腰を抱く。ブルーベルは三人に軽く手を振った。

「あいつらぁ仲いいなあ」
ダブルが笑う。
「見ていてほっとしますね、あの二人は」
イチジョウが言う。頷きあいながら、三人は酒場へ入った。

テーブルについて飲み物を待っていると、
「…んん?」
ダブルが首を伸ばすようにして、オスカーごしに遠くの席を見た。
「なんです?」
イチジョウとオスカーが同じ方向を見る。
「あれクロックか?」
「あ、そうですね」
ダブルの視線の先にいたのは、昨日と同じような身なりをしたクロックハンドだった。同じテーブルには、これまた昨日一緒に歩いていた紳士が座っている。
「なんだぁ、えらく上品な格好してんな」
「実家が商家だそうで、仕事の手伝いをする時はああいう服を着るそうですよ」
イチジョウが説明する。
「っほぉー、さまになってんじゃねえか。んじゃ一緒にいんのは仕事の相手か」
「みたいですね」
イチジョウとオスカーが視線を戻してからも、ダブルはクロックハンドを時々眺めていた。
-やっぱ、ちぃっと未練残ってんかなぁ。
そう思いながら目をやった時、それまで姿勢よく座っていたクロックハンドが額を押さえてふらつき、そのまま崩れるようにテーブルに突っ伏した。
「!!」
突然立ち上がったダブルを、イチジョウとオスカーが見上げる。
「どうしました!?」
「盛られてる」
ダブルはクロックハンドのテーブルへ一直線に向かった。

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