328.忠告

「とりあえず、ティーの代わりを探しましょうか」
イチジョウが言うと、
「トキオは潜るの?」
ヒメマルがトキオを見た。
「え?」
「ティーに添い寝とかしないの~?」
「…」
トキオは唇を舐めた。部屋を出る前に、少し悩んだのだ。
「…そんなんで休むのってアリか?」
トキオが訊くと、
「代わりに入ってくれそうな人は結構おるから、別にええんちゃう?」
「ですね」
クロックハンドとイチジョウが答えた。
「…ん…じゃ、そうさせてもらおっかな…」
メンバーが頷くのを見て、トキオは荷物を手にして立ち上がった。
「いや、添い寝っつうわけじゃねえんだけど、あいつ一人で寝るとすんげえ寝相悪くてさ、風邪ひくかも知れねえし」
「わかったから早よ帰り」
クロックハンドに追い払うような仕草をされて、トキオは早足で酒場から出て行った。

「まだやってへんちゅうのは凄いな」
クロックハンドが呟く。
「ティーって淡白なのかな~?」
ヒメマルがそう言ってブルーベルを見ると、
「どうだろな」
ブルーベルは首を傾げた。
「まあ、ゆっくり進みたいという人はいますしね」
イチジョウが笑う。
「それじゃ、代わりの人を探しましょうか。私はオスカーを探してみます」
「ほな俺ミカヅキ呼ぶわ」
*
オスカーにはGのパーティの先約があり、ミカヅキは見つからなかったが、丁度今、体が空いているという二人がいたので入ってもらうことにした。
「ロードのスリィピーと、ビショップのビオラ。よく夜のパーティで一緒に組んでる」
ブルーベルが紹介する。
「ひさしぶりやなー」
クロックハンドが言うと、ビオラがはにかむように笑って、小さく手を振った。
「前衛はどうしましょうか」
「私とクロックと…あとは?」
スリィピーがイチジョウとヒメマルを順に見た。
聖なる鎧を着けているスリィピーと、前衛能力のみのクロックハンドが前に出るのは当然だ。
「じゃあ、私が出ますか。行きましょう」

パーティが酒場を出て、街外れへ向かっている途中で、
「ビオラは君の事を随分気に入ってるようだ」
横から言われて、クロックハンドはスリィピーを見上げた。スリィピーが続ける。
「忠告しておく。ハーフエルフと付き合うのはやめた方がいい」
「なんで?」
言われなくともビオラと付き合うつもりはないが、クロックハンドはとりあえず聞き返してみた。
「ハーフエルフはエルフ以上に気まぐれで、変わり者が多い。扱いが難しいんだ。人間の手に負えるような種族じゃない」
「…」
クロックハンドはスリィピーの横顔を眺めたまま歩いている。
「最初は魅力的に見えるかも知れないが、そのうち破綻するのは目に見えている。一時の感情で付き合ったりするのはやめた方がいい。それがお互いの為だ」
「スリィピー」
クロックハンドが呼ぶと、前を向いて喋っていたスリィピーがクロックハンドの方へ目を下ろした。
「なんだ」
「好きなんかいな」
「!?」
スリィピーは一瞬だけ驚きを顔に表して、すぐに元の表情に戻った。
「何の話だ」
「ビオラのこと好きなんやろ?」
「…、いきなり、…なんだ…」
「あんな。俺はな、男の恋人作るなら男臭い奴がええねん。綺麗な子ぉは友達どまりやから、そない心配せんでも大丈夫やで」
「…別に、そういう意図は…、ただ、種族としての性格というか、相性の根本的な不一致というものは知っておいた方がいいと…」
「そやなあ、エルフの方が相性ええかもなあ、頑張りやー」
「…」
スリィピーは微かに頬を染めて、クロックハンドから目を逸らした。

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