327.誘い方
「ティーカップ、今日は潜れねえって。寝不足で」集合時、酒場のテーブルにつくなり報告したトキオに、他のメンバー4人から無言の視線が集まった。
「昨日も寝不足だったらしいんだよ。二日続けて寝不足は危ねえと思ったから、寝とけって言っといた」
「…なんで寝不足なん?」
クロックハンドがトキオの表情を窺いつつ訊くと、
「マントで興奮しすぎて、うまく眠れねえらしいよ」
トキオは笑った。
「なんだ…」
ブルーベルが呟く。
「ん?」
トキオはきょとんとしている。
「トキオが眠らせなかったのかと思っちゃったよ」
「なー」
ヒメマルとクロックハンドが頷きあう。
「…俺が…?…あ、あぁー。…んん」
トキオは頭を掻いて、膝に両手を置いた。
「…あのさ。いきなりでなんだけど」
トキオは俯き加減のまま、小さい声で言った。
「スマートな誘い文句って、どんなんだと思う?」
同席の4人は口を開きかけて、
「…」
「…」
「…」
「…」
皆考え込んでしまった。
「…スマートに誘って欲しいと、リクエストされたんですか?」
イチジョウが訊く。
「リクエストってわけじゃねんだけど、もっとスマートな誘い文句考えろって言われて」
トキオは膝の上で掌を滑らせた。
「もっと、っちゅうことは、トキオはいっぺん誘ったんや?」
「いや、」
「どんな風に誘ったの~?」
ヒメマルが興味津々の顔で訊いてくる。
「…誘ったとかじゃねえんだよ。眠れないっていうから、軽い運動したらいいって言っただけで、…そしたらそういう風にとられちまって、もっとスマートにとか言われて」
「うわぁ…」
「それはちょっと…」
ブルーベルとイチジョウが首を捻った。
「だから誘ったんじゃねんだって、ほんとにそう思ったから言っただけなんだよ!」
トキオが赤くなる。
「んー、まーなんにしても、スマートな誘い文句て難しそうやなあ」
クロックハンドが頬杖をついた。
「だろ。俺が気取ったこと言うのも似合わねえしさ」
「気取らなくても、自然な言葉でさらっと言えばスマートなんじゃないでしょうかね」
「あ、そういうことか」
イチジョウのアドバイスに納得して、トキオはじっと考えた。
「…ダメだ俺」
「なんで~」
ヒメマルが口を尖らせる。
「だって、自然に出る言葉って、やりたいとか、やろうとか、そういうのしかねえ…」
「ヒメも変わんないけど」
ブルーベルが言って、オレンジジュースのストローに口をつけた。
「そ…そう?」
ヒメマルが言うと、
「しようよーとか、しよっかーとか、ちょっと言い方違うだけで一緒だろ」
ブルーベルは横目でヒメマルを見上げた。
「でも、俺もそんなもんやなあ」
「…私もそうですね。何も言わないこともありますし」
皆の言うことを聞いていたトキオは、腕組みをした。
「そっか、みんな特別なこと言うわけじゃねんだな…」
「素直に『やりたい』でええんとちゃう」
クロックハンドに言われて、トキオはそう言った場合のことを想像してみた。
軽く眉を寄せて呆れたような顔をしたティーカップが、溜息をつき、背中を向けて「おやすみ」という場面が簡単に頭に浮かんで、トキオはがくりと項垂れた。
「前もって考えたりしてない時に出てくる言葉こそが、一番スマートかも知れませんよ」
イチジョウが笑った。
「…うん、…そうだよな」
「変に構えとったら、逆にまた、いただけへん誘い方してまうかも知れんしな」
「…軽い運動とか、ありえないよな…」
ブルーベルがぽつりと言う。
「いやだからそれマジで違うんだって」
トキオが否定しても、ブルーベルは首を振るばかりだ。