323.結果報告

「さて」
夕食を早々に終えたティーカップが、荷物をまとめて立ち上がった。他のメンバーはまだ食事中だ。
「どっか行くのか」
トキオが訊くと、
「ああ。ビアスにマントを見せてくる」
ティーカップは軽く手を振って、早足で酒場を出て行った。
「…」
見送ったトキオの顔は、今の心境と同じく少し複雑だ。
ビアスの所に行って欲しくはないが、自分と一緒に選んだマントを見せたがっているわけで-そのこと自体は嬉しい。

「あのマント、よっぽど気に入ってるんだね~」
ヒメマルが言うと、ブルーベルが笑った。
「気持ちわかるな。俺もこの服人に見せるの楽しいし」
「おしゃれするのって楽しいよねえ」
「うん。前はどうでもいいと思ってたけど、好きな服着てたら気分が盛り上がる」
「だよね~」
ブルーベルとヒメマルの会話に、ミカヅキがしみじみと頷く。
「つっても、盛り上がりすぎんのもなー」
溜息をついてみせるトキオの頬は、緩んでいる。
イチジョウは笑みをこぼしながら、置いたままになっている悪の鎧のことを思い浮かべていた。
東洋風のアレンジを施された、素晴らしい鎧。何の疑いもなくあれを着けて潜っていた時は、楽しかった。
ふと、プレゼントしてくれた時のササハラの様子を思い出して、イチジョウは目を伏せた。
*
「とりあえず、告白の結果報告をしますね」
酒場でイチジョウ、ダブルと合流したオスカーが、開口一番そう言った。
「おお、どうだったよ!」
ダブルが勢いよく聞き返す。
「はい。一応、お付き合いする、といいますか、そういうことには、なりました」
「マジかあ!!そりゃめでたいな」
「おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
オスカーが照れ笑いしながら頭を下げたのを合図に、三人は街外れに向かって歩き始めた。

「すげえなあ。相手、案外ノンケじゃなかったんじゃねえか?」
ダブルが言うと、イチジョウは少し考えてから言った。
「どうなんでしょうね、特定の相手だけOKという人もいますから」
「あぁ、あるなあ」
二人のやりとりに、オスカーは笑って頷いた。
「昨晩は、ずっとそういうことを語りあってました。友情と恋愛感情の違いは何だとか、道徳的にどうだとか、気の迷いじゃないかとか、そもそも好きということはどういうことかなんて話になって、何時間も延々と」
「っはっは、真面目な奴相手だとそうなるかもなあ」
ダブルがカラカラ笑う。
「その上で一応付き合うということにはなりましたが、…彼は、私との関係を気まずいものにしたくなくて、仕方なくそういうことにしたのかも知れません」
オスカーは神妙な顔で言った。
「それは…逆に、結構辛いんじゃありませんか」
イチジョウが言うと、オスカーはフッと溜息をついた。
「実は、彼と話しているうちに、私も自分の気持ちがよくわからなくなったんです。側でイチジョウさん達の姿を見ていて、一時的に影響されただけなのかも知れない…とも思ったり…」
イチジョウは無言で微かに頷いた。そういうことはあるかも知れない。元々オスカーは同性には興味がなかったのだ。

「でも!!!」
オスカーは勢いよく顔を上げた。
「別れ際に、初めてキスしたんです。そうしたらもう、なんというか、頭に血が上って、胸もいっぱいになってですね!ああ自分は彼が好きなんだ、これは恋だ、理屈じゃないって!わかりました!」
オスカーのよく通る声はすれ違う人達にもはっきりと聞こえたようで、あちこちから視線が注がれた。
「彼も真っ赤になってましたから、多分なんとかなりますよ!はっはっはは」
オスカーは腕を組んで朗らかに笑った。
「いいねえ…」
「いいですねえ」
同時に言って、ダブルとイチジョウは顔を見合わせた。笑いも同時に漏れる。
オスカーの前向きさも、キスで真っ赤になれるような恋愛も、いい。

地下の入り口が見えてきた時、ローブを頭からすっぽりとかぶった男が道の正面から走ってきた。
「っと」
男は右端を歩いていたダブルの腕に派手に当たって一度よろめき、そのまま走り去っていった。
「大丈夫ですか?」
イチジョウが、腕を擦っているダブルに声をかける。
「ああ、大したことねえけど…なんだろうな?」
ダブルはそう言って、当たった瞬間手に握らされた紙片を二人に見せた。

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