320+.コンプレックス(2)
アンバーの部屋をノックして、しばらく待った。「おう、CC」
出てきたのはバスローブ姿のゲイルだった。
「遊んでんのか?」
キャドが訊く。シャワーを浴びたばかりらしいゲイルの髪は、まだ濡れている。
「いや、お遊びはご無沙汰だ。アンバーに用だろ?入れよ」
招き入れられると、奥のベッドルームからアンバーの気怠い声がした。
「誰だったあ?」
「俺だよ」
答えながらベッドルームに入って、キャドは目を丸くした。
ベッドに転がっているアンバーは素っ裸で -裸でいることはさして珍しくもないのだが- その髪の乱れ具合や、脱力していい加減に投げ出された手足、何より体のあちこちに残る赤い痕と白い飛沫が、情事を終えてからさして時間が経っていないことを示していた。
「うぉあ!!キャドかよ!」
アンバーは来客がキャドだということに気付くと、足元のブランケットを引っ掴んでその中に隠れた。
キャドは後ろに立っているゲイルを見上げてから、アンバー入りのブランケットを見た。
「お前らぁ、いつからそういうことになってたんだ」
「二日前だ!」
ゲイルが嬉しそうに言う。
「良かったな」
キャドは肘でゲイルの腋を小突いた。
「おう」
ゲイルは子供のような顔で笑う。アンバーがブランケットをはねのけて、勢いよく体を起こした。
「おいキャド、良かったなってのはなんだ?お前ゲイルの気持ち知ってたのか!?」
「そりゃあ、ずーーっと前から、ゲイルはお前のこと好きだっつってたからなぁ」
「マッジかよぉ」
アンバーは申し訳程度に髪に絡まっていた髪留め紐を抜き取って、ベッドから降りた。
「シャワー浴びてくる」
「おう」
バスルームに向かうアンバーを見送って、キャドはゲイルを見上げた。
「お前まさか、無理矢理やったんじゃねぇだろうな」
「い~~~や」
ゲイルは得意げに首を振ってみせた。
「邪魔なら帰るぜ」
「何言ってんだ、用があるから来たんだろ」
「いや、ちょっと駄弁ろうと思っただけだしよ」
「立派な用じゃねえか。メシ食ったか?ルームサービス頼むつもりなんだ」
「…んじゃ、一緒に食わせてもらうかな」
アンバーがシャワーを浴び終えてしばらくしてから、ルームサービスが届いた。
夕食をとりながら、キャドは大雑把に自分の状況について話した。
「あいつの側にいればよ、多分これからもなんかあるごとに、あいつの方がなんでも上ってのがわかるんだろうな。実際そうなんだから仕方ねえのに、嫉妬とか劣等感みたいなのが沸いちまって、俺ぁそのたんびにイラつくんだよな。んで、そんなくだらねえこと気にしてる自分にもまたムカつくわけだよ。ったくよ」
酒が入って饒舌になっているキャドがだらだらとぼやくと、アンバーはじっと考えてから言った。
「くだらねえかなぁ。自分が負けてるような気分になって、平気な奴はいないっしょ。普通普通。そんなに自分責めんなよ」
アンバーはステーキにナイフを入れながら、話し続けた。
「でも、うまくそのへん割り切れなくてストレス感じるぐらいなら、無理に付き合わなくてもいいんじゃねえの?」
「…まぁ…そうなんだけどよ」
「無理しても付き合いたいぐらい、好きなのか?」
ゲイルがストレートに訊く。
「…、好き…ってのはちょっと違うな。今んとこは、興味があるってとこか」
「ま、滅多に見つかるような相手じゃないもんな」
アンバーが頷く。
「あぁ、結構面白い奴だしな。性格は嫌いじゃねえんだ」
「そういやロイドが喋ってんのあんま聞いたことないんだよなぁ。何回か組んだけど、黙々と仕事する感じでさ。実際、どんな奴?」
アンバーに質問されて、キャドはロイドの印象を頭でまとめてみた。
「…一言で言やあ、押しが強えわ」
「…」
アンバーが無言で意味ありげな視線を送ってくる。
「なんだよ」
「もう寝たのか?」
「バッッッッカ、寝るようなとこまで割り切れてたら悩むかよ」
「いや押しが強いってのはそういうことかと思ってよ」
アンバーがゲラゲラ笑う。
「性格の話してんだよ」
「なあ、寝る時はお前がネコやんのか?」
「知るかよ、くだらねえこと考えんな」
「だってお前、あいつに自分が突っ込むの想像出来るか?」
「うるっせえ、想像させんな」
「ん~、お前とあいつだったらー…」
ゲイルが腕を組む。
「やめろやめろ、想像もすんな!!」
久々に三人でとった夕食は、全員が食べ終わるまでに一時間以上かかった。