315.おせっかい

トキオは縮こまったままで、じっと考え込んだ。
-俺、天然のおせっかいなのかな…
おせっかいを焼こうと意識してとった行動なら、今後控えめにすれば解決するのだろうが、トキオは本当に単純に『こうしてみようかな』程度の動機で行動しているだけなのだ。
-何やったらおせっかいになっちまうのか、よくわかんねえや…。なんもしねえのが一番いいのかも知んね…
トキオは目を閉じて、膝に頭を埋めた。
「…これから、余計なことしねえようにするから、」
「なんでそうなるんだ」
ティーカップが強い語気でトキオの言葉を切り落とした。
「?」
トキオが思わず顔を上げる。

「だって、俺の、おせっかいみたいなのが、鬱陶しいんだろ?」
「違う。誰がそんなことを言った」
「???」
トキオが不安そうな顔のまま首を捻る。
ティーカップは、また苦い表情になった。
「僕は常々、君には出来るだけ厳しくあろうと思ってる」
「…」
トキオは小さく頷いた。
「君が慢心しないように、向上心を失わないようにという、年上ならではの心遣いからだ」
トキオはまた頷いた。
「なのに君がおせっかいだから、困るしイライラもする。わかったか?」
「????」
全然わからない。
ティーカップは、いかにもわかっていないという顔のトキオを一瞥して、溜息をついた。
「君は本当に鈍いな」
「…ぅ、 だって、なんか…話がどうつながってんのか、よくわかんねえし…」
「なら察しの悪い君にでもわかるように話そう。よく聞きたまえ」
ティーカップがトキオの正面に座りなおしたので、トキオは正座して膝に手を置き、話を聞く態勢になった。

「今言ったように、心優しい年長者である僕は、君にあえて厳しくしようとしているわけだ」
ティーカップは"僕"、"君"という言葉に合わせて、自分とトキオを指差す。
「うん」
「なのに、君は僕に何かとおせっかいなことをする」
「…うん」
「困るじゃないか」
「?」
トキオは小さく首を傾げた。
「そこが、よくわかんねえ」
「わからないことはないだろう。おせっかいを焼かれたりしたら、厳しくしづらくて困る。単純じゃないか」
「…」
トキオはしばらく考えてから、質問した。
「おせっかいされる、と、厳しくしづらいのか?」
「そうだ」
トキオはまた考え込んだ。
「…なんで?」
「嬉しいからに決まってるだろう」
「嬉しいのか!?」
「当たり前だ。…それでだな」
顔と体から緊張の糸がひょろりと抜けて、トキオの表情は口を半開きにしたまま止まった。
「イライラする理由だが」
「あっ、うん」
トキオは慌てて背筋を伸ばした。

「僕も、気の利いたおせっかいには礼のひとつぐらい言おうと思うわけだ」
「…うん」
「しかし、厳しくするというスタンスを保ちながら礼を言うのは、結構難しい」
「…うん」
「どういう言い方をしようかと悩んでいる間に、君がまた色々なおせっかいを焼いてくる」
「…うん…」
「そんな調子の繰り返しで、言えていない礼がすっかり溜まってしまってる。それがずっと気になって、イライラしてるんだ」
「…、」
嬉しいような、困るような、複雑な心境になったトキオは、肩を縮めて自分の両膝を擦った。
「あの…、そういうのは、俺が勝手にやってることなんだし、礼とかそんなん、気にしなくても」
「君が良くても僕が気になるんだ!」
至近距離で強く言われて、トキオは正座したままのけぞった。

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