313+.虜(1)

結局、金を取りに行って酒場でムラマサを譲ってもらう時まで、ずっとロイドはついてきた。
ロイドに肩を抱かれて-というよりはがっちりと掴まれ、キャドはだらだらとした足取りで酒場を出た。

酒場の喧騒から遠ざかり、宿へ続く広い路まで来ると、ロイドが顔を覗き込んできた。
「なんで最近、また俺を避けるようになったんだ」
「…」
キャドは明後日の方を向いた。
「俺は何か、君に嫌われるようなことでもしたか?」
「べぇつに」
いつもの、悪寒に似た感覚が軽く全身を走る。キャドは身震いした。
「なあ。鳥肌も全然おさまらねえし、やっぱり慣れて治すってのは無理なんじゃねえのか?」
「それはまだ君が俺のことを敵だと思ってるからだ」
「…ンなことねぇよ」
「俺はもう大分慣れた。…とにかく、避ける理由を教えてくれ」
「…」
キャドは苦い顔で、ぼりぼりと頭を掻いた。

「なぁんかな。あんたと行動してると、そのうち流されて寝ちまいそうで嫌なんだよ」
「…」
ロイドは少し考えて、
「流されるのが嫌なのか」
と確認した。
「あー」
キャドが投げやりな返事をする。
「真剣な付き合いを始めた上で寝るのならいい、ということかな」
「…いい方に考えるねぇ、あんた」
「違うのか?」
「…」
キャドは息をついて、傍らのベンチに腰を下ろした。

「流されるにしろ、まともに付き合うにしろ、なんせ、あんたとそういう仲になるってことに抵抗があんだよ」
キャドは懐から煙草を出して、咥えた。
「まだコンプレックスが?」
ロイドはキャドの正面に立って、首を小さく傾げた。
「…そんな気もするし、それはもう関係ねえような気もするし。自分でもよくわかんねぇんだ」
キャドは紫煙を吐いた。
「大体あんたは、俺の何がそんなに気に入ってんの?」
キャドに問われて、ロイドは笑顔を見せた。
「きっかけは、君が」
「あぁ待て。その『君』っての、いい加減やめろ」
「いけないか?」
「品の悪いダチしかいないもんでな、耳慣れねえのよ。お前とか、あんたとか、そういうのにしてくれ」
「…難しいな…」
「んで?俺が?」
「ああ、君…、…、…おまえ…が」
自分の言葉に違和感があるのか、ロイドは首を捻った。
「ずっと俺を避けて近寄らないようにしてたのに、一度、すぐ近くですれ違ったことがあっただろう?」
「あったなぁ」
「目が合った瞬間、俺を睨みつけた」
「あぁ」
「あの目に痺れたんだ」
「…」
キャドは糸が切れたように脱力して、ベンチにぐったりと転がった。

「あの時からだ、君の」
「『お前』」
キャドが転がったままで訂正する。
「…お前のことが気になり始めたのは」
ロイドはベンチの空いている部分に腰を下ろした。
「くっだらねえきっかけだなぁ…」
キャドは肘をついて、ゆるゆると体を起こした。
「それからは、き…お前を見つけたら、眺めるようになった」
「あぁ、一時から妙に目が合うようになったのはそのせいか」
「その度に睨んでくるから、余計に気になってな」
「無視してりゃあ良かったな」
キャドは乱れた髪を手櫛で整えてから、煙草の灰を落とした。

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