295.関係

朝の集合時間、ティーカップは酒場でブルーベルに会うなり指輪の鑑定を頼んだ。

頼んでおいた食事や飲み物が届き始めた頃に、ブルーベルは鑑定を終えた。
「特に何の効果も付与されていないみたいですけど」
ブルーベルは指輪をティーカップに渡した。
「この辺りで使われていないような魔法効果が付いていたら、俺にはわかりません。念のために、バベル辺りにも一度鑑定してもらった方がいいと思います」
イチジョウの鎧を鑑定した時と同じことを言ったブルーベルは、自分の知識に物足りなさを感じて、微かな溜息をついた。
「ふむ」
ティーカップは掌の中の指輪を眺めた。
「それは、持ったまま地下に潜るんですか?」
イチジョウの言葉を聞いて、ティーカップは思い出したように顔を上げた。
「持っているだけで効果が出る場合もあるか」
「死の指輪とか回復の指輪とか、そうやもんな」
クロックハンドが相槌を打つ。
「今んとこ、持ってても別になんともねえよな?」
トキオが訊くと、ティーカップは頷いた。
「これといった変化はないな」
「んじゃもう、いっぺんはめてみたらどうだ?持っててもつけても一緒ならさ」
トキオが勧めると、
「つけると怖い指輪もあるよ~」
ヒメマルが脅すように言った。

「怖いって…?」
トキオが不安そうな顔をすると、ヒメマルはわざと低い声で言った。
「はずせなくなって永久に呪われるとか…どんどん輪が縮んで、指がちぎれちゃうとか…」
「よこせ!!」
トキオはひったくるようにティーカップの手から指輪を奪った。
「あの、大丈夫だとは思うけどよ、もしもってことがあるし、やっぱちゃんと調べてから渡す。置いてくるわ」
トキオは席を立って、早足で酒場を出て行った。

「トキオはティーのこと好っきやねえ」
トキオのいないテーブルで、クロックハンドがそう言って隣のティーカップに目をやった。
ティーカップはクロックハンドをちらりと見て、当然だと言わんばかりの笑みを浮かべると、ジョッキに手を伸ばした。
「ティーに質問があるんやけどー」
「何かね」
軽く返して、ティーカップはビールに口をつけた。
「どっちがタチやってんの?」
「…」
ティーカップは無言でジョッキを置くと、クロックハンドの唇の上下を指で挟んだ。
クロックハンドが何か言いたそうに、つままれた唇をムニュムニュ動かしていると、
「プライベートに関わる質問はやめたまえ」
つまんだ唇を小刻みに揺らして、ティーカップは指を離した。
「もしもし」
笑って見ていたイチジョウが、ティーカップに向かって軽く挙手した。
「私は以前、ティーに同じ質問をされたことがあるんですが」
「え~。人に訊いといて、自分は言わないっていうのはどうかなあ」
ヒメマルが加勢する。
「…」
ティーカップは援護を求めるようにブルーベルを見た。ブルーベルは上目遣いで視線を受け止めていたが、頬を緩めて目をそらしてしまった。

諦めの溜息をついて、ティーカップは腕を組んだ。
「どちらがどうというような関係じゃない」
「あ、どっちもありなんか」
「そういう関係は持ってないと言ってるんだ!」
ティーカップは再びクロックハンドの唇をつまんだ。
「うそーぉ」
ヒメマルが、信じられないという顔で言う。
「嘘じゃない」
「毎日一緒に寝てるのに~?」
ティーカップは眉を寄せた。
「君達は、同じベッドに寝たからといってすぐに関係を持つのか?」

一瞬の間があってから、全員が頷いた。

「だって、他人ならともかく、恋人なら…ねえ」
「ですねえ」
ヒメマルとイチジョウが頷きあう。
「よう我慢しとるな、トキオ」
やっと唇を離してもらったクロックハンドが、しみじみと言っている所へ、
「うーい、お待たせ」
トキオが戻ってきた。
「…な、なに?」
ティーカップが眉を寄せていて、メンバーからは同情の視線が集まってくる。トキオは事態を把握出来ずに目をしばたかせた。

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