290.バカなとこ
「今日、クロックとちょっと話してたんだけどさ」ベッドの中で、ブルーベルはヒメマルの肩に頬を乗せ、見上げるように話し掛けた。
「うん」
「ふられるかも知れないとか、いっつも思ってんのか?」
「思ってるよ」
ヒメマルが笑顔で頷く。
「なんで?俺、好きとかそういう感じのこと、結構言ってるだろ」
「うーん。その時は安心しても、不安って次から次に沸いてくるんだよね~」
ブルーベルは呆れるように小さく息を吐いて、ヒメマルの首筋に額をつけた。
「…クロックハンドに、ヒメマルのどこが好きかって訊かれた」
「なんて答えたの~?」
「バカなとこ」
「あ~、やっぱり」
「…と、」
「と?」
「俺が何やっても、笑ってるとこ」
ブルーベルはヒメマルの腹に掌をあてた。
「怒ったり、呆れたり、諦めたりしないで、笑ってるとこ」
ヒメマルは頬を緩めて、腹に乗せられたブルーベルの手を握った。
「最近さ。他の奴と寝たり、刺激強いセックスなんか、別にしなくていいかなって思うようになってきた」
ブルーベルはそう言って顎を上げ、ヒメマルを見た。
「飽きちゃった?」
「…そうじゃなくて」
ブルーベルの声が途端に不機嫌になった。
「あれ、違うの?」
「…いい、言うのやめた」
握られていた手をひっこめると、ブルーベルはヒメマルから離れて後ろを向いてしまった。
「ごめんんん、何、なんで刺激強いエッチしなくてよくなったの、なんで?」
ヒメマルは慌ててブルーベルを後ろから抱きすくめた。
「別に飽きてないし。今のでやっぱ他の奴とやりたくなったし」
「ごめんって、あの、ね、ごめんなさい」
ヒメマルは足まで使ってブルーベルにしがみついた。
「…。ほんとバカなんだからなー」
ブルーベルは唇を尖らせた。
「ん~、バカでごめん」
頬を摺り寄せられて、ブルーベルは「はぁっ」と力のこもった溜息をついた。
「他の奴と寝るより、ヒメと一緒にいる方が気持ちいいんだよ」
まだ不機嫌なままの声で、ブルーベルが言った。
ヒメマルの手足の締め付けが緩んだ。ブルーベルは身体を捩って仰向けになり、ヒメマルの顔を見た。
ヒメマルは、-きょとんとしている。
「なんだよその顔」
ブルーベルが睨むと、ヒメマルは口を開け、何度か瞬きしてから、
「…えっとね、…なんていうか…。嬉しすぎて、どうしたらいいか、わかんない」
自分の言葉に頷きながら言った。
そんなヒメマルをしばらく眺めてから、ブルーベルは目を閉じてヒメマルの胸に頬をつけた。
「多分、ヒメが思ってるよりずっと、俺はヒメのこと好きだよ」
「…ベル…」
ヒメマルは思わずブルーベルの頭を抱き締めた。
「でも、心配とか不安とかグダグダ言ってるヒメは、かなり嫌い」
「う」
ヒメマルが固まった。
「…もう言わない…」
「うん。んじゃおやすみ」
ブルーベルは少し動いて、眠りやすい姿勢に体を落ち着けた。
「…あのー、ベル」
「なに」
目を閉じたままでブルーベルが応える。
「気持ちが盛り上がったのにつられて、身体もちょっと盛り上がってきてるんだけど」
「疲れてるし、明日も一日中潜るから嫌」
「ちょっとだけ」
ヒメマルは右腕でブルーベルを抱え込み、左手をシーツの中へ潜らせた。ブルーベルは基本的にパジャマの上しか着ないので、股間が無防備だ。
「ちょっとってなんだよ、やだって」
抵抗してみても、本気で抑えられると全く動けない。下着ごしに撫でまわされているうちに、ブルーベルも固さを増してきた。
「やめ…」
抗議しようとした唇をキスで塞がれ、諦めたブルーベルは体の力を抜いた。