288.お土産

ブルーベルと一緒にしばらくヒメマルの話をしてから、クロックハンドは宿に戻ってきた。

自室のドアの前には、見慣れた人影が立っていた。
「なんや、帰ってきとったんか」
歩み寄りながら声をかけると、人影-ミカヅキは手にした大きな袋を持ち上げて笑顔を見せた。
「お土産」
「えらいでかいなー」
クロックハンドは鍵を開けて、ミカヅキと共に部屋に入った。

「工房と協力して、友人の1人が作ったものなんだけど…」
忍者になってもビショップ的な活動を続けているミカヅキは、朝からビショップ仲間達と一緒にマジックアイテムの工房に出かけていたのだ。ミカヅキは立ったまま、袋の中から白いローブを取り出して、胸の前で広げた。
「メイジ系クラスの為のローブなんだ。薄いのに、強度がかなりあるらしい」
「俺もお前も忍者やのに、そんなんもろてもしゃあないがな」
クロックハンドはローブを横目で見ながら、靴を手始めにポイポイと服を脱いでいく。
「うん。魔術師の友達にあげて、使用感聞いてくれって言われた」
「ほんなら、なんで俺のとこ持ってくんねん」
「手触りがいいからフィリップのパジャマにどうかと思って」
「お前、結構ひどいやっちゃな」
クロックハンドはケラケラ笑った。ミカヅキも一緒になって笑い、ローブをテーブルに置くと、袋からもう一着、服を取り出した。
「こっちは女の子用」
これも白を基調に作られている。長袖ワンピースのミニスカートで、肩がパフスリーブになっていたり、ところどころにレースがあしらわれていたりで、なかなか可愛い。
「だからー、なんで女の子用とかもろてくるねん」
「売ればそこそこいい値段になるかと思って」
「ひゃっはっはっは、お前やっぱりひどいわ」
服を全て脱いだクロックハンドは、笑いながらバスルームへ向かった。
「あ…、じゃあ、おやすみ」
ミカヅキはスカートもテーブルに置いて、手を振った。
「なんや、もう帰るんか?」
「いい時間だから…、でも、フィリップが良ければ、居たい」
ミカヅキは遠慮がちに言った。クロックハンドが壁の時計を見る。
「あーもう11時か。泊まってくか?」
「泊まって、いいのか?」
驚いたミカヅキが目をしばたかせる。
「泊まるだけやぞ」
ミカヅキが何度も頷くのを見て、クロックハンドはバスルームへ入って行った。


クロックハンドが出た後、入れ替わりでシャワーを浴びたミカヅキは、借りたクロックハンドのパジャマに袖を通した。ささやかな幸福感に浸りつつ眼鏡をかけていると、
「これは見せパン履くんかな~」
という声が聞こえてきた。なんのことかと思いながら部屋を覗きこんで、ミカヅキは目眩を起こしそうになった。
「丈、短すぎよなあ?」
クロックハンドは土産の服を試着して、壁際の姿見に映った自身を見ながら話している。
「…短い…、…と…思う…」
ミカヅキはなんとか返事をした。
「腹周りとか袖の生地が伸縮すんねんな。どんな体型でも着れるやんか。ええデザインやわ」
クロックハンドは腰を振って、短いスカートを揺らした。
「まーせやけどやっぱり男の腰やと、いまいちやなー。女の子のきゅっと締まった腰が映えるシルエットやわな」
「…なんで…、女の子用…?」
クロックハンドのミニスカート姿を正視出来ず、ミカヅキは俯いた。
「可愛らしなーと思うて。これな、靴下もついとったぞ。結構こだわりある奴が作っとるな」
クロックハンドはミカヅキの方を向いて、右足をにょきりと上げた。ごく薄い生地の白いソックスが、太腿の半ばまで足を覆っている。
「…」
ミカヅキは一瞬だけ顔を上げ、また俯いて右手と首を振った。
「なんやねんな、…あ!しもた、俺が着てもうたら伸びてまうか!!売られへんようなるかな!?」
「…」
ミカヅキは俯いたまま、否定するように手を振る。
「まぁ俺ぐらいの太腿の子ぉやったら、おらんこともないか」
「…」
ミカヅキはやはり俯いたままで頷いた。

「お前な、友達が作ったもんやねんから、ちゃんと見たらんかいな。ちょっとは作った奴に感想も言わなあかんやろ」
クロックハンドが仁王立ちになる。
「…し」
ミカヅキは、やっとなんとか声を出した。
「刺激…強い…」
「なんや、あの眼鏡かけてへんのかいな」
「かけてるけど…」
ミカヅキは恐る恐るクロックハンドを見たものの、あっという間に真っ赤になって、両手で顔を覆った。
「なんでときめいとんねん、ここは笑うところやろがー!!」
クロックハンドにつかつかと歩み寄られ、ミカヅキは顔を抑えたまま壁の方を向いてしまった。
「男のスカート姿に興奮してどないすんのじゃ、お前はどうも趣味が偏っとるでいかんわ、このマ~ニ~ア~」
クロックハンドは片足を上げ、踵でミカヅキの尻をうりうりと攻撃した。

30分後にクロックハンドが着替えるまで、ミカヅキは壁に張り付いたままだった。

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