285.休日の提案

今日はトキオとティーカップが一番早かった。まだ集合時間の10時まで、5分ある。
朝食を注文して、トキオは眠たげに目を擦った。

昨晩は、結局バスルームに行って欲求を処理した。
同じベッドに寝ている恋人に手を出してはいけない、などという状況は初めてだ。
今までの付き合いでは肉体関係の敷居がかなり低かっただけに、辛いものがある。
「寝不足なのか?」
横からティーカップに訊かれて、トキオは首を振った。
「メシ食ったら大丈夫」
「そうか」
ティーカップは毎朝9時には起きて用意を始める。トキオは寝起きが悪い癖に、集合時刻15分前になってやっとベッドから出る。
今日はティーカップにつられて早めに部屋を出てきたこともあって、トキオの頭はまだ半分眠ったままだ。

「ひとつ提案したいことがある」
運ばれてきた朝食に手をつけながら、ティーカップが言った。
「なんだ?」
「何日かごとに、休日を設けないか?」
「休みかあ」
「休日は潜るもよし、疲れを取るもよし、好きに使えばいい。気分転換にもなるだろう」
「うん」
全く同感だ。トキオはパンを片手に深く頷く。
「一日あったら、ゆっくりデート出来るしな」
トキオが言うと、ティーカップは軽い笑みを浮かべた。

「そういやさ」
トキオは少しティーカップに寄って、小さめの声で訊いた。
「人前でベタベタすんのとかって、平気な方か?」
「ベタベタというのは、具体的にはどういったことを指すんだ?」
「んーと、そうだな…、手ぇ繋いだりとか、肩とか腰抱いたりとか、…軽いキス、とか…」
トキオはテーブルの下で、もじもじと指を弄っている。
「君はどうなんだ?」
「俺は平気、っつうか…、そういうことしたい方…かな」
「なんでそんなことがしたいんだ」
「そりゃー、ほら、俺たちは恋人なんだってのを周りに知らせたいっつうかさ…」
先程から熱くなっていたトキオの頬が、薄く染まる。
「ああ、なるほど」
「わかるだろ?」
「僕のような素晴らしい恋人がいるということを、自慢したいわけだな」
「うん」
素直に頷いたトキオを見て、ティーカップは笑った。
「そういうことなら仕方ないな。程度次第だがね」
「そっか」
トキオはニカッと笑って、食事を再開した。

半分ほど平らげたところで、パーティが揃った。
休日の話には、全員賛成のようだ。
「デート出来るね~」
ヒメマルがトキオと同じ発想を口にしたが、
「潜るに決まってるだろ」
ブルーベルは切り捨てた。
「ええー、じゃあ俺は休日をどうすごしたらいいの?」
「買い物でもしてればいいだろ」
「淋しいよ~」
「ヒメが潜るの一切やめるんなら、俺も急いでカドルト覚えなくてもいいんだけど?」
「それを言われると~」
へこむヒメマルを見て、イチジョウが笑う。
「3日おきぐらいがいいですかね」
イチジョウは休日を金策に費やすつもりだ。
「そやな、ほどよい間隔やと思うわ」
クロックハンドが賛成する。
「んじゃ、3日ごとに1日休日挟むことにするか」
トキオが言うと、ティーカップも含めて全員が頷いた。

食事を終えたパーティが酒場を出た時、ティーカップが隣を歩くトキオを見た。
トキオは照れ隠しのような笑いで返す。
「なんやかなあ、もう」
後ろから見ていたクロックハンドは、2人の手が繋がれているのを見て、にやけ気味のアヒル顔で言った。
「微笑ましいですねえ」
「ええなあ」
「いいですね」
クロックハンドとイチジョウは、顔を見合わせて笑った。

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