282+.密着

「やっぱりよぉ、こりゃ拷問だぜ」
耐え切れなくなったキャドは、笑いを含んだ情けない声を出した。
*
日もすっかり落ちた頃、食事中に酒場でお互いを見つけたキャドとロイドは、今日も『慣れるために』2人で行動してみることにした。
散歩がてらに円形土砦跡まで足を伸ばし、人のいない場所でキャドが腰を下ろすと、その真後ろにぴったりとロイドが座った。ロイドの足の間にキャドが座る格好だ。
「こりゃ近すぎるだろうよ」
キャドが前へ逃げようとすると、ロイドは後ろからキャドの腹に両腕を回して、がっちりと捕まえてしまった。
「おい?」
「荒療治だ」
ロイドはキャドを抱き締めて、離そうとしない。
「うぉあっ」
密着した背中から、広がるように鳥肌が全身を覆う。ざわっ、ざわっと続けて起こるその感触に、
「きっ、気色悪ッ、気っ色悪ィィイ!!!!!離せ、離せ!!!」
キャドは今まで出したことのないような声で叫んで足をばたつかせたが、どうやっても逃げられそうにないことがわかると、ぐったりと脱力して観念した。
*
「こんな刺激はそうそう味わえないな」
ロイドが笑いながら眼鏡をはずした。当然ロイドもキャドと同じように鳥肌と悪寒に耐えているのだが、ロイドにはそれを楽しむ余裕がある。
「シャレんなってねえって…頼むから離してくれよ…」
キャドが力なく言う。鳥肌と悪寒と歯茎の違和感が絶え間なく襲ってきて、身体の芯がびりびりと震えているようだ。
「頑張れ」
ロイドに耳元で囁かれて、また悪寒が背中を走る。
「無理だ…無理…、やめろって、…離せって」
「やっと触れて嬉しいんだ、簡単には離さない」
ロイドが頬を寄せる。触れた部分から新たな鳥肌が広がった。
「ひゃめろって、勘弁してくれ、もう、マジで」
首を振るキャドの目の前に、ロイドの左腕が差し出された。
「噛んでいいぞ」
ロイドが袖をまくった。
ほんの一瞬だけ躊躇して、キャドはその腕に噛みついた。

血の味がする。加減しそこねて、強く噛みすぎてしまったようだ。
キャドは一度口を離して、腕に滲んでいるロイドの血を舐めとると、場所をずらして再び噛みついた。
身体に入っていた力が、ゆっくりと抜ける。
キャドは目を閉じた。噛んでいるだけで、随分と落ち着く。
しばらくじっとして、また位置を変えて噛みなおす。
何度かそれを繰り返していると、ロイドが低く言った。
「俺も少し、いいか」
返事を待たずに、ロイドは右手でキャドのシャツのボタンをはずし始めた。
元々下半分しか止めていなかったボタンはすぐに全部はずされて、ロイドが後ろから襟を引くと、キャドの肩が露になった。
キャドがロイドの腕から口を離し、振り向こうとした時に、ロイドの歯が肩に食い込んだ。
「ぅ」
噛まれたところから足先にぞくりとした感触が走って、キャドの口から声が漏れた。
ロイドはキャドと同じように、位置を変えながら何度も噛みついてきた。
悪寒とは別の刺激に耐えるように、キャドはまたロイドの腕を噛んだ。

「…あー、」
キャドはロイドの腕を噛んだまま、くぐもった声を出した。
「どうした?」
ロイドが肩から口を離す。
「チンポ勃っちまった」
キャドも腕から口を離して、唇の周りを濡らしている唾液を拭った。
「俺もだ」
ロイドが笑って、キャドの髪に鼻先を摺り寄せた。
「ベッドに行くか?」
「…」
キャドは、じろりとロイドを見た。
「あんた、こうなんのがわかってて噛ませたろ」
「お互いさまだろ?」
「…」
キャドが目をそらすと、ロイドはまた囁いた。
「ベッドに行こう」
「行かねえ」
「噛みあうだけじゃないか」
「嘘つけ」
キャドはシャツのボタンをかけなおした。
自分が性欲に流されやすいのは、よくわかっている。ベッドに入ってしまえば、セックスになだれ込むのは間違いない。
正直言って、こんな特殊な相手とするセックスにはかなり興味があるし、楽しんでみたいのだが。
-なぁんか、ひっかかってんだよなあ…
コンプレックスの残りカスか、プライドのようなものか、それとも他の何かなのか。
キャドはロイドの腕が緩んでいる隙に、勢いよく立ち上がった。
「帰るわ」

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