281.敬虔

パーティは危なげなく二戦を終えると、キャンプを張った。
「今日はいつにも増して冴えてますね」
立ったまま闇を見つめて周囲を警戒しているティーカップに歩み寄って、イチジョウが言う。
「これが本調子だ」
ティーカップが笑みを見せ、イチジョウも笑った。
「ストレスの種が消えたんですね」
「そういうことだな」
ほど近い場所に腰を下ろし、話を聞くともなく聞いていたトキオは、思わず2人の方を見上げた。
イチジョウとティーカップはトキオを一瞥すると、顔を見合わせてまた笑った。
「え、何だ?俺の話してる?」
「そうと言えばそうですね」
イチジョウの答えは、トキオにはよくわからなかった。

「経過を全く聞いてないが、君の問題はどういう状況になってる?」
静かに言われ、イチジョウは真顔になってティーカップの方へ向き直った。
「色々ありましたが…差し当たって問題と言えるのは逃亡手段だけになりました」
「ひたすら資金繰りか」
「ですね」
「たまには休みたまえ…とも言えないところがな」
ティーカップが軽く息をつく。
「気遣ってもらえるだけで、充分ですよ」
「君にはくだらない愚痴を聞かせてばかりだったからな」
そう言ってティーカップはイチジョウの頭を抱き、頬を寄せて囁いた。
「無理はするな」
イチジョウは驚いて一瞬言葉を失ったが、
「…しません」
微笑んで、頷いた。

頬杖をついて2人を見上げていたトキオは、クロックハンドに勝るとも劣らないアヒル顔になっていた。
今の会話がほとんど聞こえなかっただけに、何がどうなって2人がそういう体勢になっているのか、全くわからない。
「イチジョウに取られちゃったの?」
ヒメマルがトキオの目の前にしゃがみこんで、そんなことを言った。
「へっ?えっ!?」
トキオが慌てると、イチジョウが笑って手を振った。
「でも、ぼんやりしてると連れて行っちゃいますよ」
冗談めかして言うイチジョウに、
「それも悪くないな」
ティーカップは真顔で頷いた。
「、ちょ」
トキオが立ち上がると、
「そろそろ進むぞ」
ティーカップは進行方向へ腕を振り、マントを翻した。
*
「食べたらまた潜るの?」
分配を終えた夕食の席で、ヒメマルがブルーベルに訊ねる。
「潜るよ」
「毎日そんなに潜らなくてもさ~」
「じゃあ俺がカドルト覚えるまで、ヒメが潜るのやめたら?」
白身魚のソテーにナイフを入れながら、ブルーベルは淡々と答える。
「カドルトって、ベルちゃんがそない焦って覚えんでも、イチジョウとかトキオも使えるんと違うん?」
クロックハンドが言うと、イチジョウとトキオは申し合わせたように顔の前で手を振った。
「知り合いに蘇生魔法は使いたくありませんよ」
「俺も絶対パス、プレッシャーでかすぎる」
「あーそうかー。失敗したら自分が殺したみたいで嫌やわな」
「流石に罪悪感とかいうレベルじゃねえしな」
トキオが言うと、メンバーは皆小さくうんうんと首を振った。

「寺院じゃあかんのかいな?」
クロックハンドの素朴な疑問に、ヒメマルが笑う。
「うーん、俺、異教徒だからね~。カントで蘇生してもらうわけにいかないんだよ~」
横のブルーベルが大きく頷いた。
「そうなんかー。俺は無宗教やから、死ぬや生きるやっちゅう時にそういうこと気にするんって、わっからんわあ」
クロックハンドの言葉に、
「同感だ」
「だよなあ」
ティーカップとトキオが同意する。
「私もクラスの為に形ばかり神学をかじっただけの無宗教者ですが、敬虔な信徒にとっては、生死の問題こそが一番譲れない部分かも知れません」
イチジョウが真面目に言うと、クロックハンドは腕を組んだ。
「そういうもんなんかー」
「そうそう、そういうもんだと思うよ~」
笑うヒメマルの太腿を、テーブルの下でブルーベルが抓った。

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