280.感想
「ラーニャは焦っているし、ヒメマルは最初から落ち着きがない。一番集中していたカッパ君も、近頃動きが悪い。イチジョウは安定してるが、ずっとトラブルの中にいる。油断は禁物だ」ティーカップは服を着替えながら、トキオに言った。
「…そうなのか…」
トキオはブーツの紐を引いていた手を止めた。
戦闘中は、ほとんどティーカップしか見ていない。メンバーの動きをじっくりと観察したことなどなかった。
「それぞれ私的に抱えてるものがあるようだから、緊張を長時間持続させるのは難しそうだ。キャンプは多めにした方がいいな」
「わかった」
トキオは神妙な顔で頷いた。
*
集合後、町外れへの移動中にクロックハンドがブルーベルに話し掛けた。「夜のパーティ、どんなメンツで行ったん?」
「イチジョウ、ミカヅキ、オスカーが前衛で、ダブル、俺、パットが後衛の6人で潜った」
「顔見知りばっかりうまいこと集まったんやなあ。ミカヅキは、よう働いとった?」
「彼はもう…ね」
イチジョウがブルーベルの顔を見る。
「ケタ違いって感じ」
ブルーベルは首を振った。
「そない役立たずやったかー」
「逆ですよ…」
「動きに無駄が無いし、周りに合わせるのも上手くて臨機応変だし。夜のパーティで色んな人と組んだけど、あんだけのスキル持ってる人いなかったよ」
ブルーベルが手放しで誉める。クロックハンドはアヒル顔になって、
「ふぅーん」
と、鼻から微妙な声を出した。
「パットはどないやった?」
「彼はさりげなくベテランですね」
「子供みたいなこと色々言ってたけど、戦闘は上手かった」
イチジョウの意見に、ブルーベルが付け加える。
「なかなかいけとるパーティやったんやなあ。オスカーもええロードやし」
「オスカーと話してると、G見る目が変わってくる」
ブルーベルが言う。
「彼の柔軟さと前向きな姿勢は、尊敬出来る域ですね」
「ものごっつポジティブやもんなあ」
クロックハンドはオスカーの行動や言動を思い浮かべた。たった一度組んだだけだが、印象は強烈に残っている。
「オスカーって、ちょっとヒメマルに似てるんだよな」
ブルーベルの言葉を聞いて、ヒメマルが嬉しそうに口を挟んだ。
「どんなとこが似てるの~?」
「馬鹿なとこ」
「…」
笑顔のヒメマルの眉だけが、ハの字になる。
4人の話を聞いていたトキオは、横を歩くティーカップの視線に気付いて目をしばたかせた。
「君も、夜のパーティを組もうと思ってるのか?」
ティーカップが静かに言う。
「…んー、…面白そう…、とは思うけど」
トキオは頬を掻いた。
「夜は、お前とゆっくり話とか…してえな」
小声で言うと、ティーカップは表情を変えずに瞼で頷いた。
「特に目的がないなら、潜るのは一日一度で充分だ。タフだからこそ、体力を過信しない方がいい」
「…うん」
もう少し色気のある返事を期待していたトキオは、肩を縮めた。
「お前も、夜は潜らないよな?」
「そうだな」
「んじゃ、メシ食って一緒に部屋戻れる…、か?」
少し不安を含んだ質問をする。
「ああ」
あっさりと答えが返ってきて、トキオはほっとした。
-ビアスと飯食いに行かれんのが辛いってのは、言ってなかったな。夜にじっくり話すか…
地下への入り口に着いた。いつものように隊列と装備を再確認して、
「んじゃ、」
トキオが口を開いたのとほぼ同時に、
「行くぞ!」
ティーカップが剣を抜き放って、ずかずかと階段を下りて行った。
「はえぇよ!!」
慌てて追っていくトキオの後ろで、ブルーベルが笑った。