278.?

「ちょ…っと、…待てよ。おい、」
トキオはなんとか声を絞り出した。
「からかうために告白OKしたっつうのかよ!?そんなのいくらなんでもな、」
「そこじゃない」
ティーカップの顔から笑いが消えた。
「う?」
沸点に近づいていたトキオの頭の温度が下がる。
「…」
ティーカップは険しい表情で前髪を掻き上げた。
「悪いのは君なんだぞ」
「俺が…?…、なにが??な、なんだ?」
状況が把握できずにうろたえているトキオをしばらく眺めて、ティーカップは長い溜息を吐いた。

「冗談や酔狂で告白を受けたりはしない」
「…え?」
トキオは困った子供のような顔で、
「んじゃ、あの、からかったってのは…?」
素朴な質問をした。
「それは、告白された後からの僕の態度の話だ」
「…?」
まだよくわかっていないトキオの鼻先を、ティーカップは人差し指で突いた。
「少し意地悪をしてやろうと思ったんだよ」
「…??」
「遅すぎなんだ」
「???」
トキオの頭の中で?マークがどんどん増殖していく。

ティーカップは額が当たるような距離まで詰め寄って、
「告白するのが遅すぎると言ってるんだ!!!!」
トキオに声を浴びせた。
「男なら好きだと思った時にすぐに告白したまえ!いくらでも機会はあったろう!!」
「っえ、あ、うん、はい」
トキオの体が気圧されて後ろに反っていく。
ティーカップは上体を戻して顎を上げると、トキオを見下ろした。
「待たされすぎて不愉快だったから、軽く意趣返しするつもりでしばらく冷たくしたんだ。それが僕の言った『からかった』ということだ」
「…」
トキオの困惑したような顔を見て、
「まだわからないのか?」
ティーカップが睨む。

「…えっと…」
トキオは情報を継ぎ足して、整理しはじめた。
「まず、告白OKしてくれたのは、からかったとかじゃなくてちゃんとした返事、で、」
ティーカップが目で頷く。
「…からかったってのは、告ってからちょっと冷たかったこと、で、」
トキオは俯き加減のまま、目だけでティーカップを見上げた。
「…そういうことしたのは、俺の告白が遅かったせい…っつうこと?」
「そうだ」
ティーカップは尊大なポーズと表情でトキオを見下ろす。

「…ひとつ、気になんだけど」
トキオはおずおずと人差し指を立てた。
「なんだね」
「…俺の告白待ってたってことは、お前も俺のこと…」
「勘違いするな」
ティーカップは腕を組み、眉を上げた。
「ち、違うのか?」
「君が僕に熱い視線を毎日送ってきて、いかにも告白したそうな素振りを見せていたから、仕方なく待ってやっていただけだ」
「…」
トキオは大きく首を捻った。納得していいものなのか。

「僕の方の話だが」
トキオが反論を考えている間に、ティーカップが切り出した。
「う…うん」
トキオはまた緊張した。
「同じ話をしようと思ってた。少しばかり困らせてやろうとしただけなのに、深刻に受け止めすぎて、戦闘にまで支障が出始めてるようだったのでね」
「そ…か」
トキオは小さく頷いた。身体に入っていた力が抜ける。

「それにしても、君は精神状態が露骨に戦闘に響くタイプなんだな」
ティーカップが呆れたように言う。
「だってよ…」
トキオは視線を落とした。
「…もう…すげえ気になっちまって…、気持ちの余裕とか、全然なかったし…」
ちらりと伺うと、ティーカップは冷ややかな目つきで、言葉の続きを待っていた。
「…これからは、腹立った時は、怒るとか、文句言うとかしてくれよ」
思わずまた下を向いてしまう。
「からかったりすんの、頼むから、やめてくれ。わけわかんなくて、気持ちが…うまく言えねえけど、なんつうか…ほんと、きついんだよ」
トキオは大きく息を吸った。
「俺、お前のことマジで、」
頬が火照る。
「…好きだからさ…」

「トキオ」
叱るようなティーカップの声が、俯いているトキオの額に当たる。
「そういうことは大きな声で、相手を見て言えと言ったろう」
「…うん…、」
顔を上げると同時に、ティーカップの唇がトキオの唇を軽くついばんだ。
「ぁ」
トキオが固まっている間に、ティーカップはすっと離れて、
「シャワーぐらい浴びないか?」
トキオが一番好きな顔で、笑った。

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