277.話

一度気合を入れなおした後はスムーズな狩りが続き、これといったアイテムは見つからなかったものの、いい小遣いになった。

-でも、もっと貯めておきたいな。
イチジョウはテーブルの上の金貨を摘んで見つめた。
「リーダー」
ボールいっぱいのサラダを頬張るトキオに、ブルーベルが声をかけた。
「ん?」
「夜はもうパーティに入らない?」
「…んー」
トキオはサラダを飲み込んだ。
「そうだなぁ、もともと忍者になるまで稼ぐつもりで入ってたからな。グラスもいねえし、夜はもういいかな」
「そうか…」
ブルーベルは思案顔でカクテルを飲んだ。

「ベルは潜るのか?」
「うん。まだカドルト覚えてないから」
「グラスがいる時は良かったけど、Eの即席パーティってちょっと不安あるよな」
トキオが言うと、ブルーベルは深く頷いた。
「だから知り合いが一人でも一緒ならと思ったんだけど」
「あー、そっか」
「良ければ、私がご一緒しましょうか」
イチジョウが話に入ってきた。
「まだまだお金がいりますし」
「じゃ、一緒にパーティ作ろう」
ブルーベルが笑顔になる。
「俺も一緒に行っちゃだめ…?」
「だめ」
ヒメマルの言葉に、間髪いれずブルーベルが返した。
「どうしてですか?」
イチジョウが訊く。
「俺がカドルト覚えるまでは、ヒメは潜るの最低限にするって約束したから。 駄 目 」
きっぱりと言われて、ヒメマルはしょげている。
「なんやったら、ミカヅキに声かけてみよか?」
クロックハンドが点心で頬を膨らませたまま言う。
「それ嬉しい、お願いする」
ブルーベルが身を乗り出して頼むと、クロックハンドは頷いて指でOKの輪を作った。

「…今日はこれから、なんか予定あるか?」
他のメンバーが夜のパーティの話を続ける中、トキオは隣のティーカップに、そっと話し掛けた。
「いや」
「んじゃ…食べ終わったら宿に直帰しねえか?ゆっくり話したいことがあんだ」
これだけのことを言うのに、ドキドキしている自分に困る。
「ああ」
その答えにトキオがほっとした直後、
「…僕も、君に言わなければいけないことがある」
ティーカップは溜息まじりに首を振った。
*
「聞こうか」
宿に戻って部屋の隅に荷物を置くと、ティーカップが振り向いた。
「…お…お前から…どうぞ」
帰りの道中ひとことも会話がなく、緊張しっぱなしのトキオは遠慮がちに言った。
「君が言い出したんだろう。君から話せ」
ティーカップは腕を組んで、トキオを正面から見据えた。
「…んじゃ、えっと」
話す内容は色々考えたが、何よりまず確認しておきたいことがある。
「俺のこと、正直、どう思ってる?」
訊かれたティーカップは、片手を腰にあてて首を捻った。質問の意図を測りかねているようだ。

「なんつうか、」
トキオは唇を舐めた。
「告る前も後も、俺らの関係なんも変わってない感じだし、…告った時もお前、あんま反応なかったし、」
指を組んで弄りながら、考えていた言葉を腹の底から徐々に引き上げる。
「俺がエルフの愛情表現とか、あんま知らないってのもあんだろうけど…、お前が俺のことどう思ってるのかってのが、全然わかんねえんだよな。…そんで、俺のことほんとはどうでもいいんだけど適当にOKしてみたんじゃねえかとか、実はからかわれてんじゃねえかとか、そういう不安みたいなのがずっと残ってて…落ちつかねえんだ」
一度息継ぎをして、
「だから、お前の、俺に対する気持ちってのを、いっぺんきっちり聞かせてもらいたいんだよ」
トキオは深刻な顔でティーカップを見た。

ティーカップは-

「…なんで笑ってんだよ」
トキオから目をそらすようにして、笑いを堪えていた。
「真面目に話してんだぞ」
トキオが少し強く言う。
「いや失礼、あんまり見事にひっかかってくれたのが可笑しくて」
ティーカップは笑いを浮かべたままだ。
「…って?」
トキオが不安な声を出す。
ティーカップは笑いのこぼれる口元を片手で軽く押さえて、トキオを見た。

「からかってたんだよ」

トキオの喉が、一瞬で渇いた。
「…からかった…って…、…マジで…」
「まさかそこまで真剣に受け止められるとは思わなかったんだ。参ったな」
笑いを浮かべたまま首を振り、溜息と共に肩を竦めるティーカップを見つめて、トキオは立ち尽くした。

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