263.栓

-っど、どうしよ…
ここまで言ったんなら、最後まで言ってしまえ。
今はもう何も言うな、本番は明日だ。

トキオの中で、二つの大きな意見が塊のようになって、ぐいぐいと押し合っている。
頭の中の温度がゆっくり上がって、のぼせたようにぼんやりしてきた。

ティーカップの様子を見ることも出来ず、トキオは手元のビールを見下ろして固まっている。

「…あの」
トキオは下を向いたままで口を開いた。
「…パーティ組んで、結構経つよな」
明日使おうと思っていた切り出し方だ。口が勝手に動いている。
「そうだな」
「…んで…」
溜め込んであった言葉が、頭を通らずにこぼれていく。
ちゃんと考えて喋らなければいけないとは思うのだが、止まらない。
「最近っていうか、ちょっと…いや、かなり…か」
「なんだ?」
ティーカップは手を止めて、こちらを見ているようだ。

「あ、…えと、そこそこ前からなんだけど」
「ふむ」
「なんていうか…あの」
トキオは唇を舐め、肩で大きく息をした。
頭に血が上っているのだろうか、じんじんする。
今何か考えると残りが言えなくなると感じたトキオは、間をおかずに続けた。
「気が付いたら、」
息を吸いなおす。


「なんか、お前のことすげえ、好きになってて」
「ほう」
まだ下を向いたままのトキオの視線が泳ぐ。
-ほうって言われた…

「…ん、んで」
気を取り直して続けようとすると、
「トキオ君」
額に声が当たった。
「な、何?」
高鳴っていたトキオの鼓動が、倍の早さになる。
「そういうことはきちんと相手を見て言いたまえ」
「…あ…、 うん…」
トキオはぎこちなく頷くと、そろそろとティーカップの方を向いた。

ティーカップは普段どおりの、無表情に近い顔でトキオを見ている。まるで他人事のようだ。
思わず視線をはずしかけて、トキオは首を振った。

「んで、」
あらためてティーカップに向かう。
ティーカップは品定めするような目で真っ直ぐトキオを見ている。

トキオは呼吸を整えてから、胸いっぱいに息を吸って、


「っ、恋人に、なってもらいてえ」


「…って、思っ…てる…」

なんとか - 言い切ることが出来た。

ティーカップは軽く眉を上げた。
トキオの心身がぐっと緊張する。

-どんな言葉が返ってきても、

「ああ」
「へ?」
トキオの声が裏返った。
「別に構わないが。」
ティーカップはやはりいつもと変わらない顔で言った。
「え、あの、OK…?」
トキオが確認すると、
「あぁ。話はそれだけか?」
「う、うん…」
「もうはめていいか?」
ティーカップは耳栓を摘んで、トキオに見せた。
「…うん」
耳栓をきゅきゅっと入れこむと、ティーカップは手入れしていた装備を片付け始めた。

「…」
トキオは半ば呆然と、その様子を目で追っている。
-…え…?マジでOK…なのか?
落ち着こうとして、握りっぱなしだったビールを口に当ててみたが、ぬるくて気持ち悪かった。
装備品を片付け終えたティーカップは、脱いだ手袋を重ねてトキオに差し出した。
「ありがとう」
「…ぅん」
トキオが頷くと、ティーカップはそのままベッドにもぐりこんだ。

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