260.同種
「出発は何時ごろ?」「準備次第だ」
夕食後、テーブルに残ったヒメマルとカイルが話していると、隣に座っていたブルーベルがふっと息を吐いた。
「どうしたの?」
ヒメマルが訊く。
「もうちょっと、カイルと色んな話しとけばよかったと思って」
「私はそんなに面白い話し相手ではないよ」
カイルが静かに笑う。
「でも、マジックアイテム自分で作ったりしてるんだろ?」
「そういう話なら父の方が詳しい」
「カイル~」
ヒメマルが抗議の声をあげる。
「出来るだけバベルさんのとこには行かせたくないって言ったでしょ~」
「そうだったな」
カイルは笑顔を見せて、続けた。
「しかし今、彼にはそういう元気はないと思う」
「なんで?」
「お気に入りの恋人に振られたそうだ」
「ロイドさん?」
ヒメマルが反射的に名前を出すと、カイルは頷いた。
「マジで?」
同じテーブルに残ってジョッキとにらめっこしていたトキオが、話に入ってきた。カイルがまた頷く。
「結構、惚れこんでる感じだったけどなぁ…」
トキオの頭に、バベルの為に嫌いな肉を無理に食べていたロイドの姿が浮かぶ。
「気が多い人相手にするのは嫌になったんじゃないの~?」
ヒメマルがトゲを含んだ言い方をする。
「俺に言ってんの?」
ブルーベルに刺さるような視線を送られて、ヒメマルはプルプルと頭を振った。
「ロイドに好きな人が出来たらしい。やはり同種族のほうがいいのかと嘆いていたから、人狼なんだろうな」
「…」
人狼と言われると、ヒメマルの頭にはキャドしか浮かばない。ブルーベルも同じようで、2人は思わず目で会話をした。
「…それ、まさかキャドさんとか」
ヒメマルが口に出す。
「どうだろうな、詳しくは聞いてない」
「キャドってロイドと仲悪いんじゃねえの?」
トキオが言う。
「…と、思うけど…」
ブルーベルは考え込んだ。
「あの2人のほかに、このへんで人狼って見たことないけどね~。まさかね~」
ヒメマルが腕を組む。
「同じ種族かー…」
トキオが真剣な顔で、両手の中のジョッキを見つめている。
「ヒューマンとエルフの恋愛はそんなに珍しくないよ」
トキオの考えていることを見透かしたように、ブルーベルが言った。
「そうだよな」
トキオは自分に言い聞かせるように呟くと、
「うっし」
残りのビールを飲み干して、立ち上がった。
「そんじゃ…またどっかで会えるといいな」
そう言って差し出した手を、カイルが握る。
「お互いに幸運を」
カイルの言葉にトキオは笑顔で頷き、
「お先!」
3人に手を振って、酒場を後にした。
「トキオもそろそろ告白する気かな~?」
背中を見送って、ヒメマルが言った。
「なんであんなに時間かかってんだろう」
ブルーベルが小さく首を傾げる。
「まあ、振られたらパーティ組むのも辛いしね~」
「そうかな」
「そうだよ~」
「次に会う時にも」
2人のやりとりを眺めていたカイルが口を開いた。
「ヒメマルの側に君が居ることを願っているよ」
カイルがブルーベルを見る。
「…大丈夫だよ」
ブルーベルは笑顔で答えた。