255.人種
「戦闘に使えるポーションとか、アトマイザーっちゅうの?携帯できる薬品を作りたいんよ」「戦闘に使う…?」
ブルーベルはクロックハンドの横に並んで歩き始めた。
「毒とか、薬とか、爆発するもんとかね」
「あぁ、そうか、そういう使い道があるのか…」
「俺さ、盗賊からあがった忍者やから、魔法使えへんやんか」
「うん」
「んで、なんか呪文の代わりになるもんないやろかーてミカヅキに話したら、そういうのはどうやて言われて。面白そうやなーと」
「ミカヅキは錬金術詳しいの?」
「さわりを知ってる程度みたいやね、専門家やないわ」
「彼は色々な知識ありそうだな」
「元がビショップやからなー。基本は広く浅くみたいやけどね」
話し込み始めた2人の後ろで、
「つきあってんだっけか」
ダブルが、ブルーベルの背とヒメマルの胸を親指で順に差して言った。
「うん」
ヒメマルが笑顔で応える。
「面白そうなパートナーだな」
「魅力的でしょ」
ヒメマルの顔が更に緩む。
「エルフ系は扱うのが難しくねえか?」
「そうなのかなあ?俺はそんなに困ったことないよ~」
「でも気まぐれだろぉ?」
「そこがいいんじゃな~い」
「なーるほど」
ダブルは腕を組んで、更に前方を見た。
先頭を行くティーカップの後ろを、トキオがつかず離れずの距離で歩いている。
「トキオもそのへんに惚れてんのかね」
「あのねえ~」
「うん?」
「振り回されるのが好きな人種っていると思うんだ。きっとトキオもそうなんだよ~」
「っははは、そうかもな」
ダブルはカラカラ笑った。
*
ダブルの仕事は早くて確実だ。しばらく盗賊をやっていたから、その手際の良さがよくわかる。
「はずすの早ぇなぁ~」
トキオは心底感嘆して言った。
「慣れだ慣れ。ずっとこの道ひと筋だったからな」
ダブルが宝箱のアイテムをブルーベルに渡し、ブルーベルは受け取る端から鑑定していく。
「店売りばっかり」
ブルーベルは当然のように、鑑定済みのアイテムをヒメマルに渡す。ヒメマルはザックにぽいぽいとアイテムを放り込む。
「ほな次いきますか~」
クロックハンドの声を合図に、パーティは回廊を進み始めた。
トキオは横を歩くティーカップの顔をちらりと見た。
地下に降りてから、ティーカップは全く喋っていない。ずっと無表情のままだ。
自分が悪いわけでもないのに、トキオはどぎまぎする。
*
戦利品は店売りの品ばかりだったが、そこそこの小金になった。分配の後で、「んじゃ、またなんかあったらよろしくな!」
ダブルはそう言ってパーティに手を振った。夕食は別のテーブルで摂るらしい。
「おつかれさまあー」
「また」
「街出る前はひとこと言うてやー」
口々に言いながら、パーティは夕食の席につく。
「おつかれ…、あ、明日は?」
トキオが訊くと、
「明日からは予定があって来れねえ…って こ と で」
ダブルは明らかにティーカップを意識しながらそう言って、ニヤッと笑った。
「そ、そか…わかった」
トキオは唇を舐めた。
「んじゃあな!」
テーブルを離れようとしたダブルを、
「ダブル」
ティーカップが呼び止めた。