253.吐露

ダブルはイチジョウをベッドまで運んで寝かせると、自分もベッドに腰をかけた。
「すみません…」
吐息に近い声で言うと、目を閉じたイチジョウは額に掌を当てた。体に力が入らない為か、浅くしか呼吸が出来ない。少し息苦しい。
ダブルはバンダナをはずして髪を掻きあげると、また結びなおした。
「話聞く人間、必要か?」
寝ているイチジョウに背を向けたまま、ダブルが訊いた。
長い間返事がなく、ダブルが立ち上がろうとした時に、
「できれば…」
力のない声が返ってきた。


話し終えるまでに、30分以上かかった。

切れ切れに伝えられる言葉からようやく事情を理解したダブルは、大きく溜息をついて首を振った。
「きついな」
イチジョウは微かに頷く。
「力抜けちまっても仕方ねえな」
言いながらダブルは自分のブーツの紐をほどき、靴下も脱いでブーツの中へ放り込んだ。

イチジョウは運ばれてきた時のままのポーズで、ベッドに横たわっている。
ダブルはベッドに上がり、顔を覆っているイチジョウの腕を優しく掴んだ。
「なんもしねえから」
怪訝な顔で見上げているイチジョウにそう言ってから、ダブルはイチジョウの背に腕を回して抱きしめた。
「上手くなぐさめられねえ時はこれが一番だって、ばあさんが言ってた」
「…」
ダブルの体温に包み込まれたイチジョウは、ゆっくりと目を閉じた。
*
朝、5人まで揃ったトキオ達のテーブルにダブルが近づいてきて、
「いよう」
と挨拶すると、空いていた椅子に腰を下ろした。
パーティがそれぞれ挨拶を返したところで、
「イチジョウ、当分無理そうだぜ」
ダブルが伝えた。
「ふぇ?」
今日も朝食を大量に摂取していたトキオが、頬に肉を詰めたまま変な声を出した。
「昨日遅くに偶然会って、ちっと話しこんでな。伝言頼まれた」
ダブルは簡潔に説明した。
「また別パーティでお金溜めるのかな?」
ヒメマルが言うと、
「いや、こっちの調子が悪ぃってさ」
ダブルは自分の胸の中央を指差した。
「心臓?」
「メンタル?」
ダブルはヒメマルには手を振り、クロックハンドの方を向いて頷いた。

「どないしたんやろ」
「追っかけがらみかなあ?」
ヒメマルが心配そうに眉を寄せる。
「あぁ、そのへんでちょいショックなことが重なったんで、とても潜れねえっつう話だ」
「そっか…」
トキオもヒメマルと同じような顔になっている。
ササハラが追っ手とわかった時にも探索を続けていられたイチジョウが、ダウンしたのだ。よほどの事があったに違いない。
「ダブルは今からどっかパーティ入るん?」
クロックハンドが訊いた。
「いや、決まってねえよ。適当なとこに入るつもりだ」
「ほなさ、ダブルに一緒に潜ってもらわへん?なんだかんだ言うても、宝箱開けるんは忍者より盗賊の方が上やでね」
クロックハンドはトキオに向かって言った。
「そうだなー」
トキオはメンバーを見回した。

「いいんじゃないかなあ、呪文サポートは俺とベルで充分いけると思うよ」
ヒメマルが言うと、
「…うん」
小さく頷いたブルーベルが、そのまま視線をちらりとティーカップに移した。
トキオが思わず隣を見ると、腕組みしたティーカップの目は明後日の方角を向いていた。
「…いいよな?」
トキオが訊くと、
「好きにしたまえ」
無愛想な声が返ってきた。
「ん…じゃダブル、よろしく頼むわ」
トキオが言うと、
「おう」
ダブルはニヤけた顔で答えた。

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