250.原理

残ったオークの片方はティーカップが倒し、もう片方はトキオが沈めた。
「いけそうですね」
イチジョウが言う。
「うん。普通に転職した時と同じ感じかな」
トキオは、あらためて自分の両掌を見つめた。
「修行中の記憶は曖昧だけど体がちゃんと覚えてるっつう、あの感じ」
「んじゃ、4階に行く?」
ヒメマルが言った。
「だな」
トキオが頷くと、
「油断はせずに、ということで」
イチジョウが念を押した。


4階のガーディアン相手にも、さして問題なく戦うことが出来た。
敵が鎧をつけていたり、固い皮革に覆われている場合でも、臨機応変に狙いどころを変えられる。今までずっと忍者であったかのような錯覚を起こしそうなほどだ。
*
「全然問題なさそうだね~」
ギルガメッシュの夕食の席でヒメマルが言った。
「なんか、気持ち悪ぃぐらいだよ」
トキオは次々に目の前のものを平らげていく。まだまだ体がエネルギーを欲しがっているらしい。
「どういう原理なんだろ」
ブルーベルがぽつりと言う。
「短刀の中に、死んだ忍者の記憶が入っとるんと違うん?」
クロックハンドがそんなことを言ったので、トキオはフォークを止めた。
「ま、まじで?」
「違うんかなあ、俺はそうやと思うててんけど」
「まじで?」
ブルーベルにも訊いてみる。
「さあ…」
曖昧な返事をされて、トキオは不安になった。

「死んだ奴の記憶とかって、なんか怖ぇなぁ…」
「そのうち乗っ取られたりなんかして~」
ヒメマルが茶化す。
「…マジでそれ、あり得るんじゃねえの」
トキオは深刻な顔つきになった。
「そうなったら研究させて」
ブルーベルは平然とそんなことを言って、チェリーを口に放り込んだ。
「クロックも、そういうこたぁ使う前に言ってくれりゃあいいのによ~」
トキオは鶏肉で膨らんでいるクロックハンドの頬を、人差し指でぷにゅりと突いた。
「えー、乗っ取られるとか考えもせんかったもんさー」
「うーん」
トキオは腕組みして3秒ほど止まっていたが、
「まあ使っちまったんだし、どうしようもねえか」
食事を再開した。
「そやでー、死んだ忍者がどうとかいうんは俺が勝手に考えとっただけで、実際のとこどうなんかわからんし」
「だよなー」
「さて」
不意にティーカップが立ち上がった。
「お先に失礼する」
「おつかれさま~」
「おつかれさ~ん」
「お疲れ様です」
ヒメマル、クロックハンド、ブルーベルがほぼ同時に言った後、
「あ、ちょい…」
トキオも立ち上がって、ティーカップに歩み寄った。

「部屋、戻るのか?」
ティーカップにだけ聞こえるぐらいの声で訊く。
「少し寄り道してからな」
「どこ行くんだ?」
「報告しなければいけないのか?」
「…あ…いや…、」
トキオは唇を舐めた。
「気ぃつけてな」
ティーカップは答えず、呆れるような笑みを浮かべてから店を出て行った。

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