248.自戒

「はー生き返ったーーー」
ルームサービスをペロリと3人前たいらげると、トキオは椅子の上で大きく伸びをした。血液に乗って、体中に養分が行き渡っていくようだ。
トキオの食事風景を呆れたように眺めていたティーカップは、立ち上がってパジャマに着替えはじめた。
「そういえば、俺寝てる間はみんな何やってた?代わりに誰か誘ったのか?」
「ああ、君よりずっと優秀な盗賊を雇っていたから問題ない」
「う…」
「嘘だがね」
「…嘘つくなよ…」
「一応毎日10時に集合してから、ヒメマルとカッパ君はイチジョウの金策を手伝いに行き、ラーニャは他のパーティと潜りに行き、僕は私事を適当にこなしてから部屋で君を看ていたよ」
「そっか…マジでありがとな」
トキオの顔が少し緩んだ。面倒をかけたという思いもあるが、看病(?)してもらっていたのだという単純な嬉しさが勝ってしまう。
「明日は皆が君に注目するぞ。覚悟したまえ」
着替え終えたティーカップはベッドに腰を下ろした。

「…あの…、大丈夫だったか?」
トキオはおずおずと切り出した。
「うん?」
「ビアスに変なちょっかい、出されたりしなかったか」
ティーカップは笑いだした。
「君は誰にでもそうなのか?」
「え?」
「心配しすぎだというんだよ、まるで恋人だ」
「…」
反射的に顔が熱くなって言葉を失いかけたが、
「…誰にでもじゃねえって、前に言ったろ」
トキオはなんとかそう答えた。
「そうだったかな」
「そうだよ」
少しぶっきらぼうに言うと、トキオはティーカップの方を見ずに食器をワゴンに積みはじめた。
-ちゃんと転職出来たの確認したら、告らなきゃ…だよな。
ワゴンを部屋の外へ出したトキオは、歯を磨いてからベッドルームに戻ってパジャマに着替えた。

初日と違い、仰向けにベッドに転がったトキオは頭の後ろに両手を挟んだ。
がらあきになった胸元に、隣で寝ているティーカップの腕がするりと伸びてくる。
「ぁ あのよ、」
「なんだ?」
ティーカップはそのままトキオの腕の付け根に頭を寄せてきた。触れている部分に体温を感じて、鼓動が少し早くなる。
トキオは深呼吸した。今度はこちらが訊く番だ。
「…こういうの、誰とでもOKなのか?」
「そんなわけがないだろう」
ティーカップは即答した。
「っていうと…」
トキオの中に期待が生まれる。
「あまり小さくても困るし、大きすぎても困る」
「え?…いや、…大きさのことじゃなくて…」
「君は70点だな、抱き枕には胸が厚い」
「…枕としてどうって話じゃなくてよ…」
言いながら、トキオはティーカップの顔を見た。長い睫毛は既に伏せられている。
-話聞いてねえっぽい…
少し黙っていると、すぐに寝息が聞こえてきた。トキオは溜息をつく。
-なんでこんな無防備なんだよ…
好意があるからなのか、全く相手にされていないからなのか。
-どっちでもねえのかなぁ~…
人と同じベッドで寝ること自体、なんとも思っていないのかも知れない。

トキオは左手を頭から離し、ティーカップの背中へそっと回した。
体を抱える形になって、腕いっぱいに体温が伝わってくる。
-あー…告白しねえでもこうやってられんなら、下手なこと言わねえほうがいいかなぁ…
思わずそんなことを考えて、
-逃げんなってば。
すぐに自戒した。
-でも、告ってはっきり断られたら、部屋どうしよう…
振られた後もこんな風に同じベッドで寝るのは、トキオには耐えられない。
しかし、ビアスから妙な手出しをされないように、という理由で部屋を移らせておいて、自分が振られたら出ていってくれというのはどうかと思う。
-しまった、どうすりゃいいんだろ。なんも考えてなかった…
トキオは困り顔になって、ティーカップを見下ろした。
-人の気も知らねえで、気持ちよさそうに寝てんなぁ…
しばらく眺めている間に頬が緩んできて、
-いやいやいや、ちゃんと考えねえと。
トキオは顔を上げ、天井とにらめっこをはじめた。

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