245.解放

朝、トキオは人の動く気配で目を覚ました。
目をこすっていると「チャッ」と剣を収める小気味良い音がして、
「あと5分で10時だぞ」
ティーカップの声が聞こえた。
「えー…」
トキオは顔にかかる前髪をかきあげて、頭で手を止めた。まだ足先が夢から抜けきっていない。
「先に行くぞ」
ティーカップはザックを手に、さっさと部屋を出ていってしまった。

大きく伸びをして、やっとベッドを降りたトキオが、
-えーと…なんでもいいや、パンツパンツ…
手近にあった放りっぱなしのカーゴパンツを持ち上げると、ポケットに入った重いものが太腿にコツンと当たった。
*
ギルガメッシュに到着し、メンバーの最後の1人としてトキオが席に着くと、
「短刀つこた?」
案の定、クロックハンドにつっこまれた。
「…」
トキオはあさっての方を向きながら、ポケットからそぉ…っと短刀を取り出した。
「なんでつこてへんのなーー」
クロックハンドがアヒルになる。
「もうちょっと経験積んでからにするの?」
ヒメマルが訊く。
「そういうわけじゃねんだけど、ついつい忘れてよ…」
「そんなん言うて、わざと引き伸ばしてんと違うの~。トキオはなー、忍者になったらやるって決めとることがあるんやもんなー」
クロックハンドの言葉に、全員の視線が集まる。
「あの、プライベートな話だからノーコメント」
トキオは慌てて首と手を振ったが、この状態で彼が何をするつもりなのかがわからないのはティーカップぐらいである。

「今使えば?」
ブルーベルがそう言って、手にしていたパンを齧った。
「持ち歩いてて、なくしたら困るしね~」
ヒメマルが相槌を打つ。
「せやな、持って帰ったらまた忘れそうやし」
クロックハンドも頷いた。
「どうなるものだか、見てみたいな」
ティーカップも、
「ですね」
イチジョウも乗り気だ。
「…んー、、、」
皆の期待を受けて、トキオはテーブルに置いていた短刀を手に取った。

「普通の短刀のように見えますよね」
イチジョウが言う。
「それをどうすれば忍者になれるんだ?」
ティーカップが興味を示す。
「鞘から抜いて、あとは声に従えばいいだけ、…なんだよな」
トキオが言うと、ブルーベルが頷いて返す。
「…んじゃ…」
トキオは短刀の柄を握り、鞘から刀身を引き出した。
ふわりと白い光が漏れる。

<力を解放するか?>

言葉は、目を通して頭に入ってきた。トキオは大きく深呼吸する。
-声に従うってことは、解放するってことでOK、だよな?
トキオは短刀に向かって、ゆっくり頷いた。

短刀の放つ白い光がほんの少し強くなり、すっと沈んだ。
刀身は鈍くくすんで、鼠色に変わっている。
「…終わりか?」
ティーカップが言う。
「…かな?」
トキオは短刀をテーブルに置いた。

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