244.翻弄

髪がほとんど乾いたので、トキオはおずおずとベッドに近づいてシーツを持ち上げた。
「っ!!!!」
シーツを慌てて戻すと、トキオは180度方向転換してうずくまった。
「下も履けよ馬鹿!!!!!!!!」
「馬鹿とはなんだ失礼な」
何事もなかったかのような声が返ってくる。
「いいから履け!!!!」
トキオは真っ赤になって怒鳴った。以前バスルームで見たことはあったが、前置きなしに見せられた衝撃は大きすぎる。
-わざとやってんのか!?ちっくしょー…
誇張ではなく本当にばくばくと音を立てている胸に手を当てて、トキオは必死で呼吸を整えた。

「…履いたか?」
「んー…」
「早く履け!」
「うるさいな、今履いているじゃないか」
-はー…
トキオは膝と頭を一緒に抱えた。
「履いたぞ」
「ほんとだな?」
「ウソをついてどうするんだ」
「…」
トキオはゆっくり身体を起こした。ダイレクトに反応してしまった下半身は当分おさまりそうにない。
へっぴり腰の情けない姿勢で、ティーカップの方を向かずに背中からベッドに入った。

「トキオ君」
ティーカップが背中から声をかけてくる。
「ぅ、うん?」
「君の背中は抱き枕には大きすぎる。仰向けに寝たまえ」
-無茶言うな。
動悸もおさまっていないし、下半身はまだまだ絶好調だ。
「俺は、この体勢が、一番良く寝らられ、寝られるんだよ」
振り向かずに答えると、ティーカップのため息が聞こえた。
「仕方ないな」
その言葉にトキオが安心すると、ティーカップは背中にぴたりと身体をつけてきた。

-まっずいって、こんなんで眠れねえよ…
鼓動を聞かれてしまいそうだ-とトキオが思った時、あろうことか腰に腕が回ってきた。
「うぁったぁ!!!」
反射に近い速度でトキオはティーカップの腕を掴み、腰から引き離した。
「何なんだ君は」
ティーカップが不機嫌な声を出す。
「お前こそ何なんだそんなとこ触んなっ」
トキオはティーカップの腕を掴んだまま、早口で言った。
「手ごろな幅の部位を選んだだけで、他意はないんだがね」
「なくても、…その…その、くすぐってえんだよ、そこは」
「感じやすい女の子じゃあるまいし」
「うるせえ、とにかくそのへんは触んな」
トキオが強く言うと、
「ならもういい」
素っ気無くそう言って、ティーカップはくるりと壁の方を向いてしまった。

トキオは安心した反面、せっかくのスキンシップの機会を失ったことと、ティーカップの機嫌を損ねたことに動揺した。
-だって、んなの、しょうがねえじゃんかよ…
いっそ気にせずに堂々としていた方が良かったのだろうか。
-う…そうかも知れねえ…。からかわれるだけで済んだかも…
トキオはひと晩中、後悔とティーカップの下半身ヌードのフラッシュバックに翻弄された。

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