242.雑談

ノックの音が響いたのは、クロックハンドがシャワーを浴びて部屋着に着替え終わった時だった。
「どーなたー」
ドアごしに訊くと、
「エディ」
と返ってきた。クロックハンドは鼻で息をついてから、ドアを開いた。
「なんや?」
「話がしたくて」
はにかむような笑顔のミカヅキは、手につまみの入った袋を持っている。今日の"目力遮断グッズ"は眼鏡らしい。
「…ま、入れや」

クロックハンドはビールの小瓶を持って椅子に腰を下ろした。
「祭りの時の怪物、造りもんやったんやてな」
対面に座っているミカヅキが頷く。
「研究好きなビショップの間で話題になってるよ。造り主は昔から色々な噂のあった男らしい」
「捕まったそうやな」
「うん。あれだけのことをしたんだから死刑か、それとも」
「それとも?」
「地下に放つための新しい怪物を作らされるかも」
瓶に直接口をつけていたクロックハンドは、目を丸くしてから頷いた。
「そうかー、それは有りうるわな」
「うん」
ミカヅキは神妙な顔つきで頷いた。

「お前はそういう方面の勉強は興味ないんか?」
「怪物を造るような?」
「そうそう」
「ゴーレムには興味があるけど、怪物については考えたことはないなぁ…」
「ゴーレムと怪物じゃ違うんかいな」
クロックハンドはミカヅキの持ってきたつまみのピーナッツを齧り始めた。
「ゴーレムは意思を…いや、あの怪物も一種のゴーレムだった可能性もあるのか」
ミカヅキは考えこんだ。
「とりあえず、使役用の無生物については少し勉強してる」
「手下が欲しいんかいな?」
クロックハンドの問いに、ミカヅキは笑って首を振る。
「少人数で探索する時の戦力になると思うんだ」
「あー、なるほどな」
「といっても暇をみて研究してる程度だから、大したものはまだ造れないんだけど…」
「造れるんかいな!?」
「ウッドゴーレムなら一度造ったよ」
「ウッドて、木ぃで造るんか!?」
ミカヅキが頷く。
「ウッドゴーレムは初歩的なゴーレムなんだ」
「俺、ゴーレムて石とか鉄で出来とるもんやと思うてたぞ」
「ストーンやアイアンの能力は実用的で、目にする機会が多いから印象が強いんだと思う。ウッドは所詮木だから、あまり強くないし人目に触れることが少ないんだ」
「そうやろなぁ」
「それでも俺が造るとすればひと月以上かかるし、…今だとうまく出来ても一時間も動かないんじゃないかな。忍者になってからは魔術方面の精神力が低下してるから、その影響は少なからず出ると思う」
「せやけど造れるんは造れるんや?」
「本当に"一応"造れる、という程度だけど」
「ふーん、伊達に本に齧りついとるわけやないんやな」
ミカヅキは照れるように頭を掻いた。

「よう考えたら、お前とこないして普通に喋るん初めてやな」
クロックハンドは席を立ち、貯蔵庫から二本めのビールと一緒にジンジャージュースを取り出した。
「今までは話したいことの十分の一も話せなかったから…ありがとう」
差し出されたジンジャーエールを受け取って、ミカヅキは軽く頭を下げた。
「こないな感じで話しすんのは全然かまへんっちゅうか、むしろ好きやし、なんぼでも話しに来てええぞ」
「…ま、毎日でも?」
「かまへんよ。なんぞ用事かぶった時は、そらあかんけどな」
「それじゃ、来れる限り来る」
「来る時はつまみ持ってこいよ」
「うん」
ミカヅキは嬉しそうに笑いながら、ジンジャージュースの蓋を開けた。

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